飯守泰次郎(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

重鎮の深遠なる世界へ

(C)Akira Muto
(C)Akira Muto

 ブルックナーは、重鎮と呼ばれる存在になって初めて深みが出せるのかもしれない。ヨッフムやヴァントをはじめ実例は無数にある。既に70歳を超え、今年9月から新国立劇場の芸術監督に就任する飯守泰次郎も、もはやその領域に入った。ならば、彼の振るブルックナーは聴かねばなるまい。
 飯守は、4月の東京シティ・フィル定期で交響曲第7番を指揮する。彼は、1997年から15年間、同楽団の常任指揮者を務め、2012年から桂冠名誉指揮者の地位にある。常任時代には、ワーグナーの7つのオペラを上演して大絶賛を博し、ブルックナーの交響曲も、第3、4、6、7番のライヴCDが高く評価されている。本公演は、そうした独襖ロマン派演奏の実績を踏まえて、新たに開始した『ブルックナー交響曲ツィクルス』の第3回。これまで4番、5番が演奏され、今後は8番、9番が続く。
 珍しく初演時から成功を収めた第7番は、ブルックナーらしい重厚な響きや息の長さと、彼らしからぬ明快な旋律性を両立させた作品。いわば党派を超えて支持される名曲だ。ゆえに万人が飯守のブルックナーの今を知るには最適だろう。カップリングがブラームス「運命の歌」というのもいい。これは天上と俗世を哀しくも美しく描いたピュアな作品。飯守の信頼厚い東京シティ・フィル・コーアの歌声も楽しみつつ、微妙な関係にあった両雄の世界観を比較することができる。
 飯守の持ち味はエネルギッシュで手応えある音楽。年輪を重ねて名品に臨む今回は、そこに一段の深みを加えた、気宇雄大な世界を期待してやまない。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2014年4月号から)

第278回 定期演奏会
★4月15日(火)・東京オペラシティコンサートホール Lコード:39578
問:東京シティ・フィルチケットサービス03-5624-4002
http://www.cityphil.jp