古楽界注目の俊英ジュスタン・テイラーが描くバッハ × イタリア音楽の煌めき

©Julien Benhamou

 2015年、23歳にしてブルージュ国際古楽コンクール優勝の快挙を成し遂げて以来、「フランス古楽界の貴公子」の愛称で親しまれてきたチェンバロ奏者、ジュスタン・テイラー。まさに貴公子然としたその風貌と、いかなる重力も感じさせず自由自在に楽器を奏で音楽を操る独特なスタイルは多くの聴衆を魅了し、CDのリリースも数多い。その彼が王子ホールで3度目となる公演を行う。

 前回のフランス作品特集から一転し、今回のテーマは「バッハとイタリア」。バッハは生涯を通じてドイツから出ることはなかったが、ヴァイマルの宮廷に仕えていた時代に、主君のヴィルヘルム・エルンスト公爵の甥ヨハン・エルンスト公が留学先のオランダで入手してきたイタリア音楽の楽譜に接して多大な影響を受けた。今回演奏されるヴィヴァルディやA.マルチェッロの協奏曲からの編曲作品はこうして誕生したもので、原曲への加筆修正はわずかであるにもかかわらず、まぎれもなくバッハらしい個性を聴き取ることができる。ジャンルの起源の面でイタリアと深く関わるトッカータのBWV912と914は青年期に書かれたと推測され、瑞々しい感性の奔放なほとばしりが魅力的な作品だ。「半音階的幻想曲」はトッカータ風の敏捷な走句を中心とする名作。

 演奏会のテーマと曲の選定からは作品の歴史的意義に迫りつつ正統派チェンバロ奏者としての実力を示す意図が見て取れる。新たなステップを刻まんとする貴公子の演奏をぜひ聴きとどけたい。
文:近松博郎
(ぶらあぼ2024年12月号より)

ジュスタン・テイラー(チェンバロ)
2025.1/15(水)19:00 王子ホール
問:王子ホールチケットセンター03-3567-9990
https://www.ojihall.jp