【ゲネプロレポート】
新国立劇場《夜鳴きうぐいす/イオランタ》

ファンタジーあふれる舞台で希望が表現された宝石のような2つの小品

 宝石のような小品オペラを2つ並べた新国立劇場のダブルビル《夜鳴きうぐいす/イオランタ》。音楽的には対照的な2作を続けることでどんな効果が得られるか、興味津々だったが、最終総稽古(ゲネラル・プローベ)を取材して感じられたのは、体の芯まで染みわたる心地よさだった。詩的に彩られた舞台を得て、それぞれの音楽もストーリーも相乗効果で魅力を増していた。そして、極上の音楽に酔ったのちに胸に希望が湧いていた――。得られたのはそんな稀有な時間であった。
(2021.4/2 新国立劇場 オペラパレス 取材・文:香原斗志 撮影:J.Otsuka/ぶらあぼ編集部)

 2作に共通するのは、ロシア語のオペラであること、夢あるおとぎ話であること、というのが一般的な認識だろう。しかし、2作が並ぶとこれほど強いメッセージを放つのか、と驚かされた。まさに時宜を得たそのメッセージについては後述することにし、最初にそれぞれのオペラについてレポートしたい。前半で上演されるのは、アンデルセン童話を原作にしたストラヴィンスキー《夜鳴きうぐいす》である。

左:三宅理恵(夜鳴きうぐいす) 右:伊藤達人(漁師)
左より:三宅理恵(夜鳴きうぐいす)、針生美智子(料理人)、志村文彦(僧侶)、ヴィタリ・ユシュマノフ(侍従)

 筋を簡単に紹介しておこう。舞台は中国の王宮。美しい声の夜鳴きうぐいすは宮中に呼ばれる。病気の皇帝が所望したのだ。うぐいすの声に感動した皇帝はみるみる快癒するが、日本からの使者が機械仕かけのうぐいすを献上すると、皇帝はそちらに夢中に。すると皇帝の病気は悪化し、死神に取りつかれる。だが、本物の夜鳴きうぐいすが戻って歌うと、皇帝は健康を取り戻す――。約50分の短い作品だが、3幕に分かれている。

 幕が上がると、切り絵のような木々に囲まれた舞台が、幻想的な東洋の夜明けを描いた音楽とマッチしている。そこに響く三宅理恵による夜鳴きうぐいすの声が出色だ。高音域とフレーズの装飾によって模した夜鳴きうぐいすの清純な声は、皇帝でなくても所望したくなる。

 この作品がユニークなのは、第1幕は1908年に書かれ、第2幕以降は1913年だということだ。つまり第1幕は《火の鳥》以前で、ストラヴィンスキーはまだ19世紀音楽の流れのなかにいたが、後半は《春の祭典》の初演後の作曲なので、複雑なリズムや不協和音に満ちている。その音楽の違いが、たとえば舞台上の色彩によっても強調されていた。第2幕の王宮では急に色彩が鮮やかになり、第3幕では赤が基調の王宮が死神の色である黒におおわれる。

 しかし、スタイルが異なる音楽様式の間を貫くように、三宅の安定したうぐいすの声が、美しく、幻想的に響き続けるのが心地よい。視覚的にはそれを絶妙なマイムが支えている。皇帝が快癒して死神が消えると、冒頭と同じ夜明けの場面になる。それを見て、近い未来への希望が自然に抱かれた。歌手は皇帝の吉川健一や漁師の伊藤達人も健闘していた。

中央:山下牧子(死神)、吉川健一(中国の皇帝)

 後半のチャイコフスキー《イオランタ》は、中世の南仏が舞台。美しいイオランタは盲目だが、父親のルネ王は娘を、自分が盲目だと気づかないように育てた。だが、王が招いた医者エブン=ハキアは、本人が盲目であることを自覚しなければ治らないと言う。そこに迷いこんだ青年ヴォデモンはイオランタに惹かれ、彼女に光のすばらしさを伝えてしまう。そこでルネ王は、イオランタの目が治れば事実を伝えた罪を許すが、さもなければ処刑だと宣言。彼女はヴォデモンを救うためにも治療に耐え、光を手にしたイオランタはヴォデモンと結ばれる。

左より:山下牧子(マルタ)、大隅智佳子(イオランタ)

 音楽は《夜鳴きうぐいす》と対照的に、華やかで色彩にあふれ、ロマンティックだ。そして、冒頭近くのアリオーゾから、イオランタを歌う大隅智佳子の抒情的だが意志的な傑出的な歌唱に惹きこまれる。彼女の歌唱を得て、ドラマは最後まで強い説得力を保った。ルネ王の妻屋秀和はいつもながらの安定した歌唱で、感傷的な色彩も加わるアリアも鮮やかだった。イオランタとの婚約解消を申し出るロベルトを歌った井上大聞も、朗々たる響きに存在感があった。ヴォデモンの内山信吾はこの日、大事をとって声を出さなかったが、それだけに本番に期待がかかる。

左より:日比野幸(ブリギッタ)、富岡明子(ラウラ)、大隅智佳子(イオランタ)、山下牧子(マルタ)
左より:妻屋秀和(ルネ)、ヴィタリ・ユシュマノフ(エブン=ハキア)、大塚博章(ベルトラン)、山下牧子(マルタ)、村上公太(アルメリック)

 一部に《夜鳴きうぐいす》と共通する舞台装置を使いながら、《イオランタ》でははるかに内省的な表現に転換させた演出のヤニス・コッコスの手腕はただものではない。イオランタの治癒に期待がかかるところでは、舞台の背景が光も鮮やかな山中に替わり、治癒したのちは、背景が希望そのもののように輝いた。

 19世紀末から20世紀初頭の音楽史を行き来するような音楽様式の差異を、それとして堅実に表現しながら、ある種の統一感を表した高関健の指揮も特筆に値する(管弦楽は東京フィルハーモニー交響楽団)。この2作の共通点を、演出のコッコスは「どちらも絶対的なものとして真実を伝えようとしている」と言ったが、真実をより具体的に表現するなら「治癒」だろう。死神が追い払われて皇帝の病気が治り、再び明るい夜明けが訪れる。治療に耐えて光を得て、誠実な相手と結ばれる――。

左より:ヴィタリ・ユシュマノフ(エブン=ハキア)、妻屋秀和(ルネ)
井上大聞(ロベルト)
右:内山信吾(ヴォデモン伯爵)

 コロナ禍は音楽にも舞台にも大きな試練となっているが、間もなく闇は晴れて希望の日々が訪れる。そう思える2作を、大野和士芸術監督が並べてくれたのは、偶然だとしても幸いだった。「治癒」という「真実」を、観る人の希望につながるように、ファンタジーあふれる舞台を通して鮮やかに伝えたコッコスらの演出チームに拍手を送りたい。入国制限措置のために来日できず、リモートで行われた演出は困難を極めたという。しかし、こうして希望は届けられた。カーテンコールにリモートで出演したコッコスらを見て、胸に熱いものがこみ上げてきた。

カーテンコールより 左のモニターにはヤニス・コッコス(演出・美術・衣裳)とアンヌ・ブランカール(アーティスティックコラボレーター)


【Information】
新国立劇場 2020/2021シーズン

オペラ《夜鳴きうぐいす/イオランタ》(新制作)

2021.4/4(日)14:00、4/6(火)14:00、4/8(木)19:00、4/11(日)14:00
新国立劇場 オペラパレス

指揮:高関 健
演出・美術・衣裳:ヤニス・コッコス
アーティスティック・コラボレーター:アンヌ・ブランカール
照明:ヴィニチオ・ケリ
映像:エリック・デュラント
振付:ナタリー・ヴァン・パリス

出演
《夜鳴きうぐいす》
夜鳴きうぐいす:三宅理恵
料理人:針生美智子
漁師:伊藤達人
中国の皇帝:吉川健一
侍従:ヴィタリ・ユシュマノフ
僧侶:志村文彦
死神:山下牧子
三人の日本の使者たち:高橋正尚/濱松孝行/青地英幸
《イオランタ》
ルネ:妻屋秀和
ロベルト:井上大聞
ヴォデモン伯爵:内山信吾
エブン=ハキア:ヴィタリ・ユシュマノフ
アルメリック:村上公太
ベルトラン:大塚博章
イオランタ:大隅智佳子
マルタ:山下牧子
ブリギッタ:日比野幸
ラウラ:富岡明子

合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

問:新国立劇場ボックスオフィス03-5352-9999
https://www.nntt.jac.go.jp/opera/