テーマに沿った選曲で組み立てる演奏会に取り組んできた小菅優。今回は「風」を主題に古今の作品を自由に並べた。バロックのシンプルで可愛い小鳥たちのさえずりが、強烈なトレモロによって妖しい光を発する「カラヴィンカ」(西村朗)へと瞬時に変身する。「テンペスト」(ベートーヴェン)では重い打鍵により嵐と静寂の対比が浮かび上がり、ドビュッシーで風は自然のざわめきを喚起する生命の運動となる。孤独な魂の遍歴を思わせる「霧の中で」(ヤナーチェク)で終えるまで、意外な取り合わせに翻弄されつつも、いつの間にか飲まれるように、それぞれの視点で描かれた風の諸相に聴き入っていた。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2021年4月号より)
【information】
CD『Four Elements Vol.3:Winds/小菅優』
ダカン:かっこう、荒れ狂う嵐/クープラン:小さな風車/ラモー:鳥のさえずり/西村朗:カラヴィンカ/ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第17番「テンペスト」/ドビュッシー:「前奏曲集第1巻」より〈帆〉〈野を渡る風〉〈西風の見たもの〉/ヤナーチェク:霧の中で
小菅優(ピアノ)
Orchid Classics/ナクソス・ジャパン
NYCX-10201 ¥2500+税