コンポージアム2020 トーマス・アデスを迎えて

21世紀の音楽界を強烈に刺激する英国が生んだ鬼才

トーマス・アデス
C)Brian Voce

 トーマス・アデスの名前に反応する人の多くは、21世紀のオペラやイギリス音楽シーンに関心を寄せ、若い世代による新しい音楽に関心をもつ方だろう。1971年に生まれた彼は20代初頭で早くも注目され、その才能に対しては「21世紀のベンジャミン・ブリテン」といった称賛が寄せられた。さらにはサイモン・ラトルが作品を積極的に指揮したことで(ラトルはマーク=アンソニー・ターネジなど、常に新しい才能を世の中に送り出すオーガナイザーでもある)、彼の存在は広く知られることとなる。その音楽は多彩な声部や音色がシステマティックに管理されつつ輝きを放ち、まるで現代の都市における情報網を音にして聴かせるような趣きさえ感じられるものだ。

巨大な才能に多角的に迫る好機

 東京オペラシティ文化財団が主催する『コンポージアム』は、一人の作曲家が武満徹の名前を冠した作曲コンクールで審査員を務め、新しい才能を見出すとともに、その審査員にも焦点を当てる。今年はアデスがその作曲家であり、コンクールの審査員に迎えられている。イギリスの音楽シーンに詳しい岡部真一郎氏を聞き手に迎えた入場無料の「トーク・セッション」(5/27)でスタートする4日間の祝祭は、作曲家および指揮者としての才能を披露するオーケストラ・コンサート「トーマス・アデスの音楽」(5/28)、作曲家および卓越したピアニストという側面を聴かせる「デュオ・リサイタル」(5/29、リーラ・ジョセフォウィッツとの共演)と続き、最終日(5/31)には4人のファイナリストが残る「武満徹作曲賞」の本選コンサート(演奏および講評・表彰)が行われる。

リーラ・ジョセフォウィッツ
C)Chris Lee

自らのタクトで披露する管弦楽の代表作

 それぞれに、アデスという音楽家を知るヒントが散りばめられているが、特に注目されるのはアデス自らが指揮台に立ち、読売日本交響楽団とともに3曲を披露する「トーマス・アデスの音楽」だろう。初めてアデスの音楽に接する聴き手にとってよきサンプルになるであろうオーケストラ作品「アサイラ」(1997)、ジョセフォウィッツが、色彩感と緊張感にあふれつつ伸びやかなメロディも忘れないソロ・パートを演奏するヴァイオリン協奏曲「同心軌道」(2005)、そして神秘的かつ美しいオーケストレーションが施された日本初演の「ポラリス(北極星)」(2010)。アデスの音楽に興味をもつ聴き手には最高級のラインナップだと思われ、ロンドン育ちの彼の感性から生まれる都会的な雰囲気、そしてスピード感などが東京という街の空気に呼応することだろう。

ピアニストとしての顔、そして彼が選んだ若き才能たち

 翌日の「デュオ・リサイタル」でもアデスの新作日本初演が予定されているほか、旧作のピアノ曲、そしてヤナーチェクやラヴェルのヴァイオリン・ソナタ、2001年の『コンポージアム』に登場したオリヴァー・ナッセンの作品などが演奏されるため、彼の音楽性・音楽的ルーツなどを知るには十分なプログラムだと言える。さらにはコンサートでアデスの音楽に接した後、「武満徹作曲賞」で彼の審美眼により選ばれた若い世代の作品を聴けば、さらに理解度は深まるはずだ。これから日本でも彼の作品が積極的に紹介されるきっかけになるであろう今回の『コンポージアム』。「アデス? そういえば名前しか知らないな」というリスナーにこそ、ぜひ足を運んでいただきたい。
文:オヤマダアツシ
(ぶらあぼ2020年5月号より)

*新型コロナウイルス感染症の感染予防・拡散防止の観点から、本公演は2021年1月に延期となりました。
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
https://www.operacity.jp/topics/detail.php?id=610

2020.5/27(水)19:00 トーマス・アデス トーク・セッション
5/28(木)19:00 トーマス・アデスの音楽
5/29(金)19:00 リーラ・ジョセフォウィッツ&トーマス・アデス デュオ・リサイタル
5/31(日)15:00 2020年度 武満徹作曲賞 本選演奏会
東京オペラシティ コンサートホール、リサイタルホール(5/29のみ)
問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999
https://www.operacity.jp/concert/compo/2020/