嘉根礼子(サラマンカホール支配人)

この弦を鳴らすのは“あなた”です!

 岐阜県を代表する音楽ホールであるサラマンカホールが、国内はもちろん、世界的にもほとんど類を見ないプロジェクトを開始した。「STROAN」と名付けられた「ぎふ弦楽器貸与プロジェクト」で、計40挺ものヴァイオリン、ヴィオラ、チェロを無償で貸与する(楽器ケース付き、弓はなし)。しかも条件は「国内在住、演奏経験が概ね3年以上」、すなわちプロ・アマは問わないという。募集開始にあたり、同ホール支配人の嘉根礼子に話を聞いた。

「開館25周年を迎えた2019年、ホールのファンのお一人から楽器の寄贈を受けました。イタリア、ポルトガル、フランス、そして有望な日本の職人による、若くて良質な40挺の弦楽器です。その活かし方について検討を重ねた結果、貸与プロジェクトを発足させることになりました。さらに、年齢制限を設けず広く希望者を募ることで、若い方たちの育成と同時に、仕事等でブランクのある大人の方にも再開して楽しむ夢をもっていただければ嬉しいです」

 最も多いのはイタリア製の楽器で、若手の代表的名手、佐藤晴真が18年にルトスワフスキ国際チェロコンクールで優勝した際に弾いていたチェロもある。その製作者レナト・スクロラヴェッツァは20世紀イタリアの代表的職人のひとり。他にも名工による楽器がそろっているうえに、今回はクァルテットのセットが4組16挺あることも特徴となる(個人貸与は24挺の予定)。佐藤が弾いた名器もセットに含まれる。

「寄贈者の希望で、セットで作られた楽器はまとめてお貸しすることになりました。製作者が同じ木の木目にこだわって作った楽器を試す良い機会ですし、クァルテットでのご応募もお待ちしています」
 

ルトスワフスキ国際チェロコンクールでレナト・スクロラヴェッツァのチェロを弾く佐藤晴真
C)Wojciech Grzedzinski

 事前の試奏申込はすでに開始されていて(要事前予約・2/20まで)、3月21日にホールで審査が行われる。貸与者には同ホール主催の演奏会出演が求められるが、事前に開講されるマスタークラスやワークショップに参加できる。
「審査に当たるのは、東京クヮルテットで活躍されたチェリスト原田禎夫さん、元イ・ムジチ合奏団コンサートマスターのフェデリコ・アゴスティーニさん、名古屋フィル首席ヴィオラ奏者の叶澤尚子さんで、各楽器の状態やレベルの確認もしていただきました。貸与後の演奏会やマスタークラスの開催については、皆さんが楽器を持って集まるというプロセスを共有することで、演奏者とホール、ひいては地域の結びつきにつながるような広がりを大切にしたいと考えています」

 新作楽器は弾きこむことで成長していく。「人と楽器が共に育つ」という理念は、音楽を通した育成事業を重視する同ホールの哲学にも合致する。古田肇・岐阜県知事がプロジェクトのために積極的にホールでの撮影に加わるなど、文化に理解ある県の姿勢も伝わってくる。
「岐阜県は、美しい長良川が流れ、『清流の国』と呼ばれています。このことから、40挺の楽器群は“清流コレクション”と命名されました。『一滴、一滴の水が共感を集め、やがて清流となってこの地を潤す』という願いが込められています」
 専門家はもちろん、弦楽器の心得がある“あなた”も、最初の貴重な“一滴”となれる好機。この壮大なプロジェクト、ぜひともご確認を。
取材・文:林 昌英
(ぶらあぼ2020年2月号より)

ぎふ弦楽器貸与プロジェクト《STROAN》
https://salamanca-stroan.gifu-fureai.jp
※楽器のリストや応募資格・審査方法などの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。