【GPレポート】NISSAY OPERA 2019《トスカ》

イタリアの色彩のなかで激しさと美しさがバランスされた《トスカ》

 《トスカ》には激しさと美しさが高い次元で同居している。主役3人がいずれも、わずか1日のうちに非業の死を遂げる、という劇的な展開は当然、音楽の激しさや強さにつながっている。歌手にも強靭な声が求められるが、一方で、近代的なオーケストレーションに支えられた美しいメロディが次々と繰り出し、聴き手を酔わせてくれる。だが、激しさと美しさを同時に表現するのは、演奏家にとっては大変だ。NISSAY OPERA 2019《トスカ》は、そのバランスいう点で、ひとつの回答を示していた。公演日は11月9日、10日で、その後、中・高校生向けに同公演が3日間上演される。取材したのは初日から隔日で歌う砂川涼子、工藤和真、黒田博組の最終総稽古(ゲネラル・プローベ)である。演出は粟國淳。
(2019.11/6 日生劇場 取材・文:香原斗志 撮影:寺司正彦)

 幕が開いてすぐ耳と目が驚かされた。オーケストラの全奏でスカルピアの動機が響いてから、しばらく絶妙な緊迫感が漂ったが、堂守が入ってくる場面では、軽やかなリズムへと音楽が鮮やかに切り替わった。そのシャープな転換が心地よい。また、音の角がとれて美しく、プッチーニ独特の味わいが適度に加えられるルバートで表現され、そこにイタリアの色彩がふわりと乗せられる。読売日本交響楽団の機能的な腕前の高さは周知のとおりだが、これだけイタリアの色合いを引き出す指揮者、園田隆一郎の手腕に唸らされた。

 たとえば、カヴァラドッシとアンジェロッティが退場する場面のアレグロ・ヴィヴァーチェ、堂守と聖歌隊が賑やかに奏したあとスカルピアが登場する場面など、一気にアッチェレランドさせ、聴き手の気持ちを引きこみながら場面転換を図るさばき方も、園田は見事である。

 また、《トスカ》はすべてローマに実在し、現存する場所で展開するが、最初の舞台であるサンタンドレア・デッラ・ヴァッレ教会の内部が、最小限の装置を使って絶妙に表されていた。アーチや壁龕(へきがん)、鉄柵などがデフォルメせずに作り込まれ、柱や壁の質感まで見事に表現されている。その装置が舞台全体を覆っているわけではない。しかし、計算された人物の動きも加わって、視線が自ずとリアルに再現された場所に誘導されるので、装置と調和のとれた衣裳も相まって、1800年のローマにいざなわれる。

 カヴァラドッシを歌った新鋭、工藤和真はフレージングが美しい。2日後に本番を控えて若干声を抑え気味だったようだが、力強い声を自然にやわらかく響かせることができ、品位がある流麗なフレージングが強い印象を残した。また第2幕、ナポレオンの勝利を聞いて高らかに叫ぶ「Vittoria! 勝利だ!」Ais音には、人材が豊富とはいえないリリコ・スピントの役を歌えるテノールとしての潜在力の高さが感じられた。

 また、時に猛々しい女性として描かれることがあるトスカ役だが、砂川涼子は持ち前のリリックな美声を活かして歌っていた。信心深い敬虔な女性で、カヴァラドッシへの思いも一途なトスカの、女性らしさが強調され、そこに説得力があった。また、リリックな砂川との対比で、黒田博が歌うスカルピアの悪漢然としたドスの利いた表現が効果を発揮していた。

 大劇場での豪華絢爛な上演にも堪える作品だが、この比較的小さな《トスカ》のなかには、この作品のエッセンスが高い次元で詰まっていた。

【第1幕】







【第2幕】




【第3幕】



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工藤和真(テノール)〜ぶらあぼ2019年10月号より

【Information】
NISSAY OPERA 2019
《トスカ》全3幕(原語上演・日本語字幕付)

2019.11/9 (土)、11/10 (日)各日13:30 日生劇場

指揮:園田隆一郎 演出:粟國 淳 管弦楽:読売日本交響楽団
合唱:C.ヴィレッジシンガーズ 児童合唱:パピーコーラスクラブ

出演
トスカ:砂川涼子(11/9)岡田昌子(11/10)
カヴァラドッシ:工藤和真(11/9) 藤田卓也(11/10)
スカルピア:黒田 博(11/9) 須藤慎吾(11/10)
アンジェロッティ:デニス・ビシュニャ(11/9) 妻屋秀和(11/10)
堂守:晴 雅彦(11/9) 柴山昌宣(11/10)
スポレッタ:工藤翔陽(11/9) 澤原行正(11/10)
シャッローネ:金子慧一(11/9) 高橋洋介(11/10)
看守:氷見健一郎(両日)   

問:日生劇場03-3503-3111 
http://www.nissaytheatre.or.jp/