垣岡敦子(ソプラノ)

純粋に愛に生きるマノンに共感して歌います

©FUKAYA Yoshinobu/auraY2

 2009年にイタリアから帰国し、同地で研鑽を積んだ叙情的で厚みのある声を持つ王道ソプラノとして名高い、垣岡敦子。12年より「愛の歌」をテーマに続けてきた人気リサイタルシリーズも今回で第6回目を迎える。

「毎年、公演が終わった瞬間から次回のことを考えています。すべて自分でプロデュースする以上、マンネリ化は避けたいですし、独りよがりなステージにもしたくない。稽古を重ねて、人としても日々成長する努力を続けるのみです」

 プログラム前半では歌劇《ルサルカ》の〈月に寄せる歌〉も楽しみだが、グノー作曲の歌曲〈悔悟〜聖なる主よ〉は必聴。“フランス近代歌曲の父”らしい甘く切ない旋律で、神の慈悲にすがる気持ちを綴った敬虔な祈りの歌だ。

「オペラ・アリアのように壮大、でも知られざる佳曲で、感極まって最後まで歌うのが難しいほど。ぜひご期待下さい!」

 だが今年の目玉は間違いなく、日本では目にする機会の少ないマスネの傑作《マノン》のハイライト版上演だろう。プッチーニ作品と同じく、アベ・プレヴォーの恋愛小説を原作とする全5幕の長大なオペラから、第4幕を除いて聴きどころを抜粋。期待の若手テノール、宮里直樹を騎士デ・グリュー役に迎え、コレペティトゥアとしての経験も豊富で歌手からの信頼も厚い村上尊志のピアノ演奏で全編を紡ぐ、リサイタルとしては異例の企画だ。

「私の愛してやまないレパートリーであるマノンの役を存分に演じてみたくて、以前から構想を練っていたところ、リリカルだけど情熱的な感情表現もできる宮里さんという絶好の相手役を得て、それにオーケストラ並みに迫力満点の村上さんが弾くピアノさえあれば、十分実現可能だと確信しました。衣裳と照明にこだわり、映像投影技術も駆使して魅せます。上演時間の都合でカットする部分についてはスクリーン上の字幕でストーリーを説明したい。その文章も自分で考えるほか、全体の演出にも挑戦して完成度の高い舞台を目指します!」

 優艶でエモーショナルなマノンの歌に、デ・グリュー単独のアリアから二重唱まで聴きどころが満載。スイスのラグジュアリーな宝飾ブランド「ショパール」とのコラボで、彼女が身に纏う本物のハイジュエリーも見逃せない。

「美しさゆえに享楽的な生き方を選んでしまうけれど、第2幕の有名な〈さようなら、私達の小さなテーブルよ〉で愛する人のために身を引こうと苦悩する姿などには、マノンの純粋さが表れています。そこに凄く惹かれるのです」
取材・文:東端哲也
(ぶらあぼ2019年11月号より)

垣岡敦子 ソプラノ・リサイタル AMORE 愛の歌 vol.6
2019.11/14(木)19:00 王子ホール
問:ビーフラット・ミュージックプロデュース03-6908-8977 
https://www.bflat-mp.com/