2019北九州国際音楽祭

東アジアへと繋がる多彩で雄大な一大イベント

 1988年に長い歴史の幕を開けた「北九州国際音楽祭」は、30年以上という歴史の中でさまざまな演奏を人々に届け、文化を創生してきた一大イベント。今年も10月初旬から11月後半にかけ、北九州市の「響ホール」をメイン会場として市内のカフェや大学キャンパスなどで、数多くのコンサートや市民の企画による特別プログラムなどが行われる。

 今年のテーマは、地理的にも歴史的にも大陸や東アジア諸国に近い北九州市らしく、「エモーショナル─東アジアへのめざめ─」。出演する国内外のアーティストも多彩だが、80年代初頭のデビュー時より日本とベトナムの架け橋となってきたダン・タイ・ソンが音楽祭に初登場することは、大きなトピックだろう。「ピアノの詩人」とはショパンに冠される称号だが、それはショパン弾きとして世界中に名前を轟かせているこのピアニストにも当てはまる。今回は、そのショパン作品を中心としたプログラム。音楽の中に潜む世界をピアノで語るような彼の演奏は必聴だ。

 パリ音楽院で学び、2015年の「ショパン・コンクール」を制した韓国出身の若手、チョ・ソンジンがベートーヴェンの「皇帝」を弾くコンサートも要注目だろう。NHK交響楽団等にも客演するマレク・ヤノフスキと、ドイツの名門であるケルン放送響の共演は、2020年の「ベートーヴェン・イヤー(生誕250年)」を目前にしたプレ祝祭コンサートだ(後半は「田園」交響曲!)。

 ベートーヴェンつながりでご紹介するならば、この音楽祭ではおなじみの“マロ”こと篠崎史紀が率いる祝祭オーケストラ「マイスター・アールト×ライジングスター オーケストラ」も聴き逃せない。世代を超えた奏者が集うこのオーケストラが演奏するのは、ベートーヴェンの交響曲を3曲並べたプログラム。しかも自発的なアンサンブルによる斬新な名演を期待して、なんと指揮者なしの演奏へチャレンジするのだ。

 ほかにも鍵盤楽器奏者・指揮者として引く手あまたの鈴木優人をパートナーに迎えた、人気ソプラノ歌手・森麻季のリサイタルや、国内外で活躍する5人の奏者が集う室内楽コンサートなど、クラシック音楽の多彩な面に触れることができるラインナップ。市内や周辺エリアの音楽ファンはもちろん、門司港など魅力的な観光スポットを有する街を楽しみながら、音楽祭を堪能するのもいい。秋の北九州市は、東アジアへつながる街になるのだ。
文:オヤマダアツシ
(ぶらあぼ2019年10月号より)

2019.10/6(日)〜11/24(日)
北九州市立響ホール、アルモニーサンク北九州ソレイユホール、西日本工業倶楽部 他
問:北九州国際音楽祭事務局093-663-6567 
http://www.kimfes.com/
※音楽祭の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。