仏の鬼才が超名曲の姿を一新!
ミンコフスキの都響客演時のプログラムは、毎回意表を突いている。2014年の初共演時はビゼー・プロ、15年はブルックナーの交響曲第0番他、17年は同じく第3番他、18年はチャイコフスキーの「くるみ割り人形」…彼はこれら全ての演目で発見の喜びに充ちた音楽を展開してきた。そして5回目の共演となる19年10月定期は、シューマンの交響曲第4番(1841年初稿版)とチャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」というこれまで以上に意外な選曲。中でも後者は未知の魅力に溢れている。
1962年パリ生まれのミンコフスキは、82年に設立したレ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル等での古楽演奏で名を上げた後、ベルリン&ウィーン・フィルへの客演などモダン・オケでも活躍。現在はボルドー国立歌劇場の総監督、オーケストラ・アンサンブル金沢の芸術監督を務めており、近年の定期的な客演が示すように都響との相性も抜群にいい。
彼の音楽の特徴はまず無類の愉悦感、さらには緻密さ・精妙さとダイナミズムの共存だ。特に後者の面は、都響とのブルックナーの交響曲でも発揮され、表情豊かで瑞々しい0番、精緻で重層的な3番を聴かせてくれた。それは両曲と同じく短調でシリアスな今回の2曲に通じること必定。シューマンの4番の初稿版は、耳慣れた改訂版に比べると室内楽的で骨格が明瞭ゆえに、持ち味がフルに発揮されそうだし、「悲愴」は、ブルックナー両曲の表現を併せ持った、既成概念を一新するアプローチが期待される。むろん都響の極上の機能性も大きな味方。名曲の新たな姿が出現する予感に胸が踊る。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2019年9月号より)
第888回 定期演奏会 Aシリーズ
2019.10/7(月)19:00 東京文化会館
問:都響ガイド0570-056-057
https://www.tmso.or.jp/