コバケンと縁の深いオーケストラが生み出すハンガリーの響き
日本とハンガリーの外交関係開設150周年を迎えた今年、様々な記念文化事業が行われている。そのハイライトとも目されるのが、1945年ハンガリー国営鉄道設立のハンガリー・ブダペスト交響楽団(MÁVブダペスト交響楽団、以下MÁV)来日公演である。9公演にも及ぶツアーを率いるのは我らがマエストロ小林研一郎。同団に客演を重ね、現在は名誉指揮者の地位にある。
この楽団と深い縁ができたのは、小林が優勝を果たして欧州にその名を広めた、第1回ブダペスト国際指揮者コンクールだった。
「一次予選はくじ引きでベートーヴェン1番の緩徐楽章とロッシーニ《セビリアの理髪師》序曲を引き、この順でやるルールでしたが、わざと無視して『セビリア!』と言って手を振り下ろしました。すると、まるでイタリアの青い海のような音が返ってきたのです。その瞬間に感じたきらめきはそうそうあることではなく、運命の女神の導きのようでした。僕がヨーロッパで初めて音を出したその楽団こそ、このMÁVだったのです」
東京公演の演目は、「両国に共通する民族性も感じられる」というコダーイ「ガランタ舞曲」を前半に。メインはあえてドヴォルザーク「新世界より」で、「隣国チェコの曲ですが、お国ものじゃないからこそ気付ける魅力も多く、面白いです」。記念年のために依頼された小林自身の新作もあり、「本当に恐縮な機会です。両国の旋律が入る短めの曲になります」と構想を明かした。
リスト音楽院に学び、バルトーク国際コンクール優勝など、やはりハンガリーゆかりの俊英、金子三勇士がソロを務めるリストのピアノ協奏曲第1番も注目。共演機会の多い金子について、目を細めてこう語る。
「彼が少年の頃、姿勢などについて助言したらすぐに取り入れてくれました。助言から本質をつかみ取れるのも大切な才能です。いまや素晴らしい名手ですが、上に伸び続けるだけで深さに乏しくなるといけないということで、また何か杭を打ち込んでみたいなと思っています(笑)」
大阪ではチャイコフスキーの5番やブラームスの二重協奏曲などを。後者で共演するハンガリーの超絶技巧デュオ、ヤボルカイ兄弟については「彼らとなら技巧を超えた“ハンガリーのブラームス”ができそうです。そこに“コバケンの唸り声”も入れて三重協奏曲として楽しんでいただければ!(笑)」と思わぬ冗談も飛び出すほど。
「ハンガリーは日本に近い気質があり、もっと知っていただける機会になれば嬉しい」と語るマエストロと、「古き佳き時代の香りを残し、共に燃え上がってくれる」MÁVとの熱演、しかと受けとめたい。
取材・文:林 昌英
(ぶらあぼ2019年5月号より)
小林研一郎(指揮) ハンガリー・ブダペスト交響楽団
2019.5/21(火)19:00 サントリーホール
問:テンポプリモ03-3524-1221
2019.5/24(金)19:00 ザ・シンフォニーホール
問:ABCチケットインフォメーション06-6453-6000
※全国ツアーについては下記ウェブサイトでご確認ください。
http://www.tempoprimo.co.jp/