名匠二人の妙技とフルート・オーケストラの魅力
フルート界のトップランナー工藤重典が新譜『牧神の午後への前奏曲〜フルート・アンサンブルの愉しみ〜』をリリースした。工藤のソロによる「牧神」が初録音だというのもやや意外だったが、一方の注目が、ヴィヴァルディ「4本のフルートのための協奏曲」や、ハチャトゥリアン「剣の舞」など、収録8曲中6曲がフルート・オーケストラでの演奏ということ。その魅力を工藤はこう言う。
「ひとつは、“歌うオルガン”というイメージ。今回のCDの中でもボワモルティエの『5本のフルートのための協奏曲第1番』(フルート・オーケストラ版)がまさにそう。ノン・ヴィブラートで音程だけ合わせて吹けばオルガンのような響きにはなるのですが、やっぱりみんな笛吹きなので、その中で“歌う”。そこが独特だと思います」
ピッコロ、フルート、アルト・フルートに、珍しいバス・フルート、超レアなコントラバス・フルートの加わったフル編成の響きは実に多彩だ。
「そして、フルーティストだけで協奏曲が演奏できるというのもいいんですよ!」
名曲のひしめくフルート協奏曲だが、管弦楽と共演する機会は限られる。それをフルート奏者たちだけで演奏できれば演奏機会は格段に広がるというわけだ。日本は世界的に見てもフルート人口の多いフルート大国。毎年全国各地の大ホールで行われるフルートフェスティバルには大勢の奏者たちが集う。大編成はそこでの演奏にも大いに活用できる。
そしてアルバムのもうひとつの聴きどころが、工藤と同じランパル門下の“兄貴”アンドラシュ・アドリアンとの共演だ。
「ちょうど10年違いの同じ誕生日なんです。最初に会ったのは僕が20歳の時。ニースの夏期アカデミーで、彼はランパルのアシスタントでした。とてつもなく上手い奏者がいると驚いた。音楽の表現力はもちろん、発信する力が強い。今回参加した若い生徒たちも彼にすごく刺激を受けていました」
工藤のフルート・アンサンブルやオーケストラのレパートリーの多くは、Hakuju Hallで主宰するコンサート「フルート・ライヴ in Hakuju」のために生まれた編曲。
「もともとは90年代に渋谷のジァン・ジァンで始めた企画。客席とステージの近さが気に入って、10人ぐらいの仲間でやってみたら大成功でした」
ジァン・ジァンが閉館して中断していた企画が、2008年にHakuju Hallで蘇った。6月29日にはその10回目の公演がある※。「想定できる曲をすべて集めた」という、昼夜各2時間半のプログラムによる豪華2本立てだ。残念ながら今回を集大成とし、「フルート・ライヴ」はいったん終了とのこと。絶対に逃せない機会だ。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2019年5月号より)
CD『牧神の午後への前奏曲〜フルート・アンサンブルの愉しみ〜』
マイスター・ミュージック
MM-4053
¥3000+税
※「フルート・ライヴ in Hakuju」については本誌P.64の紹介記事をご参照ください。