バッティストーニと共演!熊川哲也版『カルミナ・ブラーナ』9月世界初演

 Bunkamura30周年記念 フランチャイズ特別企画として9月4日、5日、K-BALLET COMPANY/東京フィルハーモニー交響楽団 熊川版 新作『カルミナ・ブラーナ』がBunkamura オーチャードホールにて世界初演される。同ホールの芸術監督を務める熊川哲也が記者懇談会に出席し、作品にかける想いを語った。
(2019.3/14 Bunkamuraオーチャードホール Photo:J.Otsuka/Tokyo MDE)

 『カルミナ・ブラーナ』は、19世紀初めのドイツ南部、ベネディクト修道会の修道院で発見された古い詩歌集。作曲家カール・オルフ(1895〜1982)がこれに基づき作曲したカンタータ《カルミナ・ブラーナ》は、「春」「酒」「愛」をテーマに全25曲の舞踊と合唱から成る3部構成の大作(1936年作曲、37年フランクフルトで初演)だ。副題「楽器群と魔術的な場面を伴って歌われる、独唱と合唱の為の世俗的歌曲」が示す通り、オルフはこの作品を舞踊を伴う舞台作品としての上演を前提に作曲している。熊川は、「全25曲すべてが素晴らしく、想像力をかきたてる。これを無視する芸術家はいないのではないか」と語る。

 日本ではこれまでに、新国立劇場バレエ団でデヴィッド・ビントレー振付作品が、昨年には東京都と東京都交響楽団が東京芸術劇場や豊島区と連携して初開催した音楽祭[サラダ音楽祭]のメインコンサートして、大野和士指揮都響とコンドルズの近藤良平振付によるものなどが上演されてきた。熊川版・新作バレエ『カルミナ・ブラーナ』では、構成・演出・振付を熊川が手がけ、Bunkamura オーチャードホールとフランチャイズ契約を締結する、Kバレエ カンパニーと東フィルが出演し、東フィル首席指揮者のアンドレア・バッティストーニが指揮台に立つ。さらに、ソリストと合唱が加わり総勢250名と大編成だ。

 バッティストーニは、2015年に故郷イタリア・ヴェローナの野外オペラの祭典「アレーナ・ディ・ヴェローナ・オペラ・フェスティバル」で、18年3月には新宿文化センターにおいて東フィルと同作を演奏しており、熊川はその音源を聴いている。バッティストーニと東フィルについては、「同じ劇場にフランチャイズとして属する東フィルとの共演は自然な流れ。バッティストーニは有望で勢いのある、世界に名を馳せるだろう(あるいはもうなっているのか)良い指揮者だと思います。Kバレエには専属のオーケストラがついているので、こうした機会がなければ外部アーティストとコラボレーションはできない。今回の共演は私にとって良いチャンス」と意気込む。

 熊川版『カルミナ・ブラーナ』は、“女神フォルトゥーナの子は悪魔であった”という発想のもとに物語が展開される。
「08年に初演した『ベートーヴェン 第九』を制作する上で、1時間ものの作品として『カルミナ・ブラーナ』も候補の一つでしたが、音楽を聴き込んだのは作品を創る上で今回が初めてでした。Kバレエ カンパニーとしてオリジナル作品を創っていく上で、『カルミナ・ブラーナ』はいつかは着手するだろうと、見過ごすことのできない作品です。昨今、私は振付に力を入れていますが、Kバレエのオリジナル演目を残していくために、取り上げることは当然の流れでした。物語の構想は、1時間かからずにまとめることができ、テーマを思い付いてからは興奮状態で・・・。『第九』『クレオパトラ』を創ったときもそうでしたが、頭の中で形ができて『成功だな』と感じました。
 私はクラシック畑で、クラシックバレエに恩義があり、恩返ししなければいけない立場だと考えています。クラシックバレエの形式美は不滅で、変わることのない芸術です。今回の振りもクラシックバレエの延長線上にあります。
 作曲家オルフの背景や歌詞を読みこむと、物語は直線的なものではなく流線的に、少しひねりをいれた流れにしたいと思いました。歌詞から離れることはしたくなかったのですが、俗っぽい内容なので、その歌詞を直接的に具現化するだけでは偉大な音楽家には勝てないなと」想いを明かす。

 衣裳・美術デザインは、ジャン=マルク・ピュイッソンが手掛ける。パリ・オペラ座バレエ学校を卒業し、シュツットガルト・バレエ団などでダンサーの経験を持つ。デザイナーに転向し、近年の代表作には、ロイヤル・オペラ・ハウスでのマクヴィカー演出《アイーダ》、ロイヤル・バレエ団『ジュエルズ』(バランシン振付)などが挙げられる。
 起用に際し熊川は、「リサーチした結果、彼の世界観が今回の『カルミナ・ブラーナ』に合うと思い、コンタクトを取りました。彼とは同じ歳ということもあり、話がスムーズに進み、良い世界観を出してくれると思います」と語る。

 リハーサルは4月から始まるため、オーディションを経てキャストを選考するというが、女神フォルトゥーナと悪魔アドルフ、各1名ずつの2名をすでに決めているという。「私の中では女神フォルトゥーナはあの人と想像しています。明言は避けますが、“復活”できればなと思っています。悪魔の少年にはKバレエスクールの男の子を起用します。とても演技力がある子です」。

 Kバレエ カンパニーは創立20周年を迎え、近年では『カルメン』『クレオパトラ』と新作全幕バレエを上演し、意欲的な公演が続く。『カルミナ・ブラーナ』公演後の9月27日からは、プッチーニのオペラ《蝶々夫人》に想を得た新作『マダム・バタフライ』世界初演も控えている。
「日本からオリジナル作品を発信することは、我々のプライドにつながっています。オペラは、オペラハウスの中でバレエと隣りあわせのもので、私は音楽を聞き慣れています。ストーリーは素晴らしいものがたくさんありますし、善し悪しは別としてオペラ界の方に力を借りて、という感じです。
 『マダム・バタフライ』は難しい題材ですが、面白い作品になると思います。オペラはイタリア人とアメリカ人が創っているから矛盾が多い。ジョン・ルーサー・ロングの著書には悪いですが、脚色する部分が多くなるかも知れません。ピンカートンが日本に来る前の場面を創らないと、彼が何者なのかが分からないし、ケイトとの関係を描かないと、東洋人の愛人を作るその悲壮感が薄れてしまう。『マダム・バタフライ』は“東洋のジゼル”になると思います。音楽はプッチーニの他に、第1幕ではドヴォルザークの音楽を使用します。交響曲第1番がいいなと思っています。
 カンパニーとしては頼れる右腕も育っていて、『カルミナ・ブラーナ』では渡辺レイが、『マダム・バタフライ』では宮尾俊太郎が振付指導にあたっています。私一人だけでなく、チームで乗り切りたいと思います」


【公演情報】
Bunkamura30周年記念 フランチャイズ特別企画
K-BALLET COMPANY / 東京フィルハーモニー交響楽団
熊川版 新作『カルミナ・ブラーナ』世界初演
2019.9/4(水)、9/5(木)各日19:00 Bunkamura オーチャードホール

構成・演出・振付:熊川哲也
音楽:カール・オルフ
衣装・美術デザイン:ジャン=マルク・ピュイッソン
出演:K-BALLET COMPANY
指揮:アンドレア・バッティストーニ
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
ほか

Bunkamura
https://www.bunkamura.co.jp/