88歳を迎える舘野泉が、2024年の活動を語る!

フィンランドで出版された『奇跡のピアニスト舘野泉』
日本語翻訳版が出版

写真・取材・文:編集部

 ピアニストの舘野泉が2024年の活動について語る記者懇親会が、6月27日、スタインウェイ&サンズ東京で開かれた。
 懇親会では、まず24年の主なトピック4つが紹介され、それぞれについて舘野自らが説明していった。

 1つ目は、初の評伝の出版。フィンランド在住のオルガニストで文筆家のサリ・ラウティオが2019年からおよそ3年半かけて執筆した評伝で、すでに同国では出版されている。舘野の生い立ちから近年に至るまでの活動や、間宮芳生、吉松隆、光永浩一郎ら日本人作曲家のインタビューが、貴重な写真とともに掲載されている。日本語版は舘野自身が監修として関わっている。
「妻のマリアが去年の3月に80歳で亡くなりました。この本のことを亡くなるまで心にかけていましたので、彼女の写真を多く載せたいと思い日本語版では追加しています。素晴らしい本ができて感謝しています」
と声を詰まらせながら語った。

  2つ目は、「88歳の挑戦」として9月にインド、ブータン、ネパールで演奏をするという。
「去年の春、妻が亡くなったあと、親しくしている方から『これから何を楽しみにしてやっていきますか?』と聞かれ、『僕はチベットかネパールか、ブータンに行ってみたい』と話したことから始まりました。その時はまさか本当に行けるとは思っていなかったんですが(笑)」
 「ピアノのあるところにはどこへでも」をモットーに、60年以上の音楽生活のなかで、世界中を旅して演奏をしてきた舘野。チベットは標高1,400mのカトマンズで、ブータンでは国に2台しかないというグランドピアノを使って演奏する。

 3つ目、フィンランドの作曲家 ペール・ヘンリク・ノルドグレン(1944-2008)の生誕80年を記念し、9月20日、旧東京音楽学校奏楽堂でコンサートを開催する。ノルドグレンは、1970〜73年の間、東京藝大で学び72年には出世作の「ターニング・ポイント」を作曲するなど、日本文化に影響を受けていて、舘野とも親交が深い。
「かつてピアノ曲の作曲を頼んだんですけど『ピアノは弾けないし、手強すぎる』と断られました。でも一緒に旅をする機会があって、そのお酒の席で引き受けてくれました(笑)。数週間してできてきた曲のタイトル『耳なし芳一』を見て驚きました」
 ノルドグレンは、小泉八雲の怪談を英文で読んで強烈な印象を受け、ピアノ曲のほとんどを八雲の作品に基づいて作曲している。また、それらのピアノ作品はすべて舘野に捧げられた。

 ここで光永浩一郎の「海と沈黙」、ノルドグレンの「振袖火事」が演奏された。

 最後は、11月のバースデー・コンサートについて。今年は、3つの委嘱新曲が予定されているという。そのうちのひとつで、今回のメインと言える「水夢譚(すゐむたん)」は平野一郎が作曲する。舘野が「現代日本で私が最も高く評価する作曲家のひとり」と語っており、舘野とはこれまでにも「鬼の生活」「鬼の学校」などの大作を手掛けている。今回は左手ピアノに、琵琶、尺八、笙、箏、打物など和楽器を取り入れた作品になるという。
「平野さんが札幌の演奏会に来てくれたことがあり、その時にアイヌの遺跡などを見てきて、インスピレーションが沸いたそうです。ピアノと和楽器を一緒に演奏して、融合するのか反発し合うのか今は(作曲中なので)わかりません。たぶん9月末くらいにはできてくると思うんだけどね(笑)」

 年齢やハンディキャップのことなど感じさせない超自然体な語り口。普段、こういった会見に慣れている評論家や報道関係者も、舘野を前にするとまるで童心にかえったような気持ちになり、その一言ひとことに引き込まれていってしまう。11月のバースデー・コンサートでの新曲のことを楽しそうに語る姿が印象的で、ただただ純粋に音楽を愛してやまず、コンサートが楽しみでならないという様子だった。

『奇跡のピアニスト 舘野泉』
監修:舘野泉
サリ・ラウティオ 著 五十嵐淳 訳
発行:みずいろブックス
発売:静風社

公演情報

2024.9/10(火)18:30 インド インディア・インターナショナル・センター
9/12(木)18:00 ブータン チャンガンカ・ミドル・セカンダリー・スクール
9/14(土)17:00 ネパール ヒマラヤホテル

ノルドグレン生誕80年記念コンサート
2024.9/20(金)18:30 旧東京音楽学校奏楽堂
出演
舘野泉(ピアノ)、元田牧子(朗読)、佐竹裕介(ピアノ)、ヤンネ舘野(ヴァイオリン)、木下真希(ヴァイオリン)、中田美穂(ヴィオラ)、佐藤響(チェロ)

舘野泉 バースデー・コンサート 2024
2024.11/2(土)14:00 南相馬市民文化会館
11/4(月・祝)14:00 東京文化会館(小)
曲目
パブロ・エスカンデ:ナイチンゲールと薔薇の花
パブロ・エスカンデ:魔女の夜宴 ※ピアノソロ
平野一郎:水夢譚(すゐむたん)
出演
舘野泉(ピアノ)、元田牧子(朗読)
舘野泉(洋琴)、中村華子(笙)、田野村聡(尺八)、木場大輔(胡弓)、久保田晶子(琵琶)、竹澤悦子(箏)、池上英樹(打物)

ジャパン・アーツ
https://www.japanarts.co.jp