“弦のトッパン”ならではの、意義深い受賞記念コンサート
トッパンホールは2016年に、その活動が評価されてサントリー音楽賞を受賞した。それから3年を経た今年4月、満を持して受賞記念コンサートを行う。この栄誉ある賞を“ホール”が受賞したのは初めてのこと。主催公演全般を企画する西巻正史も「寝耳に水」だったという。
「実力があるのにあまり知られていない演奏家の紹介や、弦楽器やリートといったジャンルの公演を、地道に継続してきたことが実ったのかなと思っています。ホールはメッセージを発信する場、そしてなすべきミッションを体現する場が主催公演。それを“オンリーワン”の姿勢で形にしてきました」
注目の公演は、「シュニトケ&ショスタコーヴィチ プロジェクト3」として開催する。
「このプロジェクトは、開始当初から受賞記念公演を意識して企画しました。二人は今の時代にきちんと向き合うべき作曲家です。若手の育成に関わって強く思うのは、『音楽・演奏というのは技術の追求ではない』こと。演奏は『技術の追求を踏まえた上での人間の精神の営み』であり、二人はそれを想起させてくれます。また今は精神の営みがインターネットなどの情報に蹂躙されている時代。それは二人の生きた時代や社会との関係と重なります。彼らの闘いの軌跡である音楽に、いま一度我々も取り組みたいし、日本の若い演奏家に取り組んでほしいし、世界トップクラスの音楽家の感じ方を見せたいし、日本のお客様にも聴いてほしい。これらの融合を一回でできるのがこのコンサート。それこそ受賞記念に相応しい、意義あることだと思います」
出演者もこの企画に打ってつけのアーティストが選ばれた。
「“弦のトッパン”と言われるからには弦楽器奏者に出演してほしい。そこで、これまでホールを牽引してくれた人の代表として、チェロのピーター・ウィスペルウェイに声をかけました。次に、ホールが育ててきた若い世代の代表としてヴァイオリンの山根一仁を迷わず起用。そしてこれから深い関係を築いていきたいアーティストとして、世界最高のヴィオラ奏者の一人、ニルス・メンケマイヤーを指名しました。指揮は二人の音楽に造詣が深い井上道義。オーケストラは、N響や読響の首席奏者をはじめ、ホール初期からゆかりの深い名手揃いです」
演目はまさに“オンリーワン”の内容だ。
「シュニトケの『Concerto for Three』は、クレーメル、ロストロポーヴィチらが作曲者の60歳を祝うべく委嘱した作品。三者が渡り合う激烈な音楽で、今回の三人の組み合わせは面白いと思いますよ。ヒンデミットの『白鳥を焼く男』は、民謡を用いたヴィオラ協奏作品で、彼の中でも親しみやすい音楽。ヒンデミットはナチスと闘った意味で二人と共通していますし、メンケマイヤーならばぜひこれをと思いました。ショスタコーヴィチのチェロ協奏曲第1番は、ウィスペルウェイと道義さんに演奏してほしいと思っていた曲。作曲者のあらゆる要素が詰まっています。そしてワーグナーの『ジークフリート牧歌』。“道義さんが振るワーグナー”という興味もありますし、最後くらいは浄化するような救いのある音楽をと。これは(ワーグナーの妻の誕生)祝いの音楽で、インティメートなホールの雰囲気にも合っていると思います」
あらゆる意味で意義深い、ぜひ聴いておきたいコンサートだ。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2019年4月号より)
第47回サントリー音楽賞受賞記念
シュニトケ & ショスタコーヴィチ プロジェクト3
2019.4/26(金)19:00、4/27(土)18:00 トッパンホール
問:トッパンホールチケットセンター03-5840-2222
http://www.toppanhall.com/