多士済々の日本のチェロ界を牽引する若きトップランナー宮田大が、一昨年に続いて無伴奏作品のみを集めたリサイタルに挑む。最も重点を置くのが“無音”だ。
「作曲家が書いた休符の表現を大切にしたいなと思っています。映画で、スローモーションになって音が消える瞬間と同じような感覚。時間が止まるような、あの緊張感が無伴奏の魅力です」
プログラムは、J.S.バッハの「無伴奏組曲第3番」、リゲティの「無伴奏ソナタ」、黛敏郎の「BUNRAKU」、ブリテンの「無伴奏組曲第1番」。
「バッハはどんな演奏にも応えてくれる、器の大きさ、許容範囲の広いイメージがあります。自分の音楽性、音色、チェロで歌って言葉のようにお客さんに語りかけ表現できる。そして、無伴奏作品ではありますが、数字付きの通奏低音のようにさまざまなハーモニーを自由に想像することができます。想像する和音が変わると感じ方もまったく違ってきて、可能性が無限に広がってゆく。だからこそバイブルと呼ばれているのだと思いますね」
2年前には、黛の「BUNRAKU」で文楽の人形遣い・桐竹勘十郎とコラボした。
「自分の演奏を目の前で表現して返してくれる人がいるというのは、ものすごくインスピレーションが湧く体験でした。自分の演奏を解説してもらう感覚です。勘十郎さんは、『関寺小町』(能に由来する文楽の舞踏劇)の世界を感じる作品だとおっしゃっていました。間近で見る文楽の人形は、顔や手の細かい動きで表情がまったく違って見える。音の抑揚やテンションなど、音楽にもつながる表現だと思います」
プログラムを通して、一幕の芝居を見るように楽しんでほしいという。
「全体に不協和音も少ない、歌心のある作品を選びました。どの曲もイメージが豊かなプログラムですので、ぜひ想像をふくらませながら聴いてほしいと思います。バッハをリスペクトしていたブリテンの作品は、実際にメロディもバッハから借りている部分があり、最初に弾いたバッハが最後に戻ってくるというストーリーです」
無伴奏作品ばかりだといつも以上に緊張感が求められるのではないかと尻込みする必要はない。
「そうさせないように、異世界にお連れするような、いい意味での緊張感を共有したい。紀尾井ホールも、大阪のいずみホールも、それが実現しやすい繊細なサウンドの会場です。演奏家は着色しないで弾いているので、そこで生まれた音楽のさまざまな色を、自由に混ぜ合わせながら聴いていただければと思います」
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2018年9月号より)
宮田 大 無伴奏チェロ・リサイタル
2018.10/9(火)19:00 紀尾井ホール
問:ヤタベ・ミュージック・アソシエイツ03-3787-5106
2018.10/11(木)19:00 大阪/いずみホール
問:otonowa075-252-8255
http://www.daimiyata.com/