【レポート】「オペラ芸術論Ⅰ 〜私たちはどこへ向かうべきなのか?〜」

「OPERA ART ACADEMIA 2018」〜プロローグ(オリエンテーション)

 演出家・田尾下哲が主宰する「田尾下哲シアターカンパニー」では、主にオペラ歌手やオペラ公演関係者、オペラファンを対象に4月から「OPERA ART ACADEMIA 2018」を開催している。

 第1回目の講義となった4月26、28日は、今後1年間におよぶ講義のプロローグとして「オペラ芸術論1 〜私たちはどこへ向かうべきなのか?〜」と題したオリエンテーションが開催された。オペラ上演に際して何を問題視しているか、問題点を提示しながら、田尾下が今後のプログラムを以下のように紹介した。
(2018.4/26 桜美林大学四谷キャンパス Photo:M.Terashi/TokyoMDE )

田尾下 哲


■6〜7月に開催予定の「オペラ音楽論」について

 そもそもオペラ演出はどうやって学ぶものなのか?
 オペラ演出は、演出家について演出助手をしながら現場で学ぶものという認識もあると思うが、きちんとシステムだった教育があり、「基礎」というものが存在していると述べた。しかし現状、日本ではオペラ演出の教育システムやきちんとしたベースとなる「基礎」がない。
 田尾下は師匠であるミヒャエル・ハンペからの教えを紹介する。ハンペからはとにかく、「楽譜にすべて書かれている。楽譜を探偵のように読み込み、すべては楽譜から発想をすべき、そして楽譜を視覚化するように」と教えられたという。また「シェイクスピアとギリシア悲劇を何語でもよいのですべて読みなさい」とも教わったという。すべての物語の基礎というのはその2つでほとんど成り立っているといっても過言ではなく、原作を読み込むことで400年以上残っている上質なスタンダートな作品を知り、そして「審美眼」が身につくと語る。
 また、田尾下は「楽譜を視覚化すること」を徹底的に追求することはまだ世界的にも確立されておらず、研究の余地があるのでは、とも語る。現役ではウィリー・デッカー、アンドレアス・ホモキ、シュテファン・ヘアハイムなどいるが、楽譜に書かれている音を使った演出の先駆者は、じつはジャン=ピエール・ポネルであるとした。

 6〜7月に開催予定の「オペラ音楽論」では、ハンペの教えでもあった「楽譜」に着目し、「どのような意図を持って作曲をしているか」、そしてその楽譜にかかれているメッセージを読み解くための「楽曲分析の手法」、「指揮者と演出家の間でどのようなやりとりを行っているか」など、実際に作曲家、指揮者などをゲストに迎えてレクチャーやワークショップを行う。また、「呼吸と声帯の音声生理学」となぞらえ、医学的な見地から歌唱を科学するプログラムも予定されている。


■7〜10月頃開催予定の「オペラ演出論」について

 7〜10月頃開催予定の「オペラ演出論」では、物語を物語るための身体表現や演出について、実際にダンサーや振付家を招いて身体表現について考える。ワークショップのほか、岩田、菅尾、田尾下の3人の演出家が、同じシーンを同じ歌手、同じ稽古時間でそれぞれ演出し、どういうところがどのように違った演出になるのか、はたまた同じような演出になる箇所はあるのか? と非常に大規模で実験的なプログラムも実施する予定だ。
 参考例として1911年のオペラ映画、ドニゼッティ作曲「ランメルムールのルチア」より6重唱の映像(6名がみな正面を向いて、ほぼ演技なしで歌っている、まさに一般的なオペラのイメージの原型)と2006年のザルツブルク音楽祭での《フィガロの結婚》の映像を紹介。この100年の間で、「照明」「字幕」「コンタクトレンズ」「TVモニター」などさまざまなテクノロジーの発展で歌手には自由な動きが可能となり、より演劇的な要素が強くなり、舞台は社交場から「演じ、観る」ものへと変化したと説明する。

NISSAY OPERA2016《後宮からの逃走》の舞台をモデルに解説


■11月〜2019年1月頃開催予定の「オペラ表現論」について

 世界の最先端のオペラ事情を世界的に活躍するゲストよりリアルな情報を聞いたり、「魅せるを識る」と題し「照明」「美術」「衣裳やメイク」での表現について、それぞれ各分野の専門家をゲストに迎え、トークセッションやワークショップを行う。


■2019年2〜3月頃開催予定のスペシャルレクチャーについて

 エピローグとしてスペシャル・レクチャー「オペラの未来」、1年間の総括としてのディスカッションも開催する。

【今後の予定:OPERA ART ACADEMIA 2018】

【OAA、10月までのシラバス】
■オペラ音楽論/作曲家という才能
作曲家はどのような意図をもって作曲しているのか
ゲスト:宮川彬良(作曲家)
2018.6.8(金)19:00〜21:00
会場:三田フレンズ レクリエーションホール(恵比寿・目黒)
料金:無料

■オペラ音楽論/指揮者VS.演出家!? 〜効果的なシナジーを目指して〜
音楽と演出、そのバランスのとり方は?協業のシナジーは?
ゲスト:下野竜也(指揮者)
2018.6.14(木)19:00〜21:00 
会場:桜美林大学・四谷キャンパス1Fホール(千駄ヶ谷)
料金:無料

■オペラ演出論/身体表現ワークショップ〜身体表現をとことん磨く〜(仮)
愛の表現は歌だけではない!オペラにおける身体表現を考えるWS。指先で表現する愛情表現を、身体表現のプロフェッショナルから学ぶ。
ゲスト:平山素子(コンテンポラリーダンサー・振付家)
2018.7.6(金)18:00〜21:00
会場:芸能花伝舎(新宿)
料金:2000円(会場代・資料代等の実費として)

■オペラ演出論/オペラ演出家たちのホンネ
一線で活躍するオペラ演出家たちの本音を聞くことでこの後のWSの課題とする
ゲスト:岩田達宗、菅尾友(菅尾はSKYPE参加を予定)
2018.8.4(土)12:00〜14:00
会場:未定
料金:無料

■オペラ演出論/3人の演出家によるクリエーション[1](岩田達宗・篇)
共通シーン『フィガロの結婚』のNr.7・“Cosa sento! Tosto andate”を、3人の演出家が各々シーン作りを行い、その解釈やクリエーションの相違・類似性を体感する公開稽古。配役として下記の歌手が特別に参加。
スザンナ: 腰越満美
伯爵: 黒田博
バジリオ: 大槻孝志

2018.8.4(土)15:00〜21:00
会場:未定
料金:2000円(会場代・資料代等の実費として)

■オペラ演出論/3人の演出家によるクリエーション[2](田尾下哲・篇)
共通シーン『フィガロの結婚』のNr.7・“Cosa sento! Tosto andate”を、3人の演出家が各々シーン作りを行い、その解釈やクリエーションの相違・類似性を体感する公開稽古。配役として下記の歌手が特別に参加。
スザンナ: 腰越満美
伯爵: 黒田博
バジリオ: 大槻孝志

2018.8.30(木)15:00〜21:00
会場:未定
料金:2000円(会場代・資料代等の実費として)

■オペラ演出論/3人の演出家によるクリエーション[3](菅尾友・篇)
共通シーン『フィガロの結婚』のNr.7・“Cosa sento! Tosto andate”を、3人の演出家が各々シーン作りを行い、その解釈やクリエーションの相違・類似性を体感する公開稽古。配役として下記の歌手が特別に参加。
スザンナ: 腰越満美
伯爵: 黒田博
バジリオ: 大槻孝志

2018.9.16(日)15:00〜21:00
会場:未定
料金:2000円(会場代・資料代等の実費として)

■オペラ演出論/クリエーション・映像発表会&参加者ディスカッション
3人のクリエーションを映像で振り返り、参加者とともにディスカッションを行う
ゲスト:岩田達宗、黒田博
2018.10.2(木)19:00〜21:00
会場:未定
料金:無料

■オペラ演出論/クリエーションを受けての演技ワークショップ
3人のクリエーションを受けて、実際に実践しながら参加するワークショップ
ワークショップ:田尾下哲
2018.10月(予定)
会場:未定
料金:2000円

*各回参加方法*
件名に「参加希望プログラム名」
本文に
・ご希望日時
・お名前
・参加人数
・連絡先(携帯電話・メールアドレス)
を明記の上、info@tttc.jpまで。

問:田尾下哲シアターカンパニー03-6419-7302(ノート株式会社内)
info@tttc.jp
03-6419-7302(ノート株式会社内)

田尾下哲シアターカンパニー
http://tttc.jp