京都でドビュッシー没後100年を記念する特別企画

 ドビュッシーの没後100年、京都・パリ友情盟約締結60周年/日仏友好160周年の年でもある今年、京都コンサートホールでは、ドビュッシーにまつわる3つのコンサートシリーズが特別企画されている。

 1958年6月15日、初めての姉妹都市として,パリ市と友情盟約を締結した京都市は、歴史都市,文化芸術都市,国際観光都市など,パリと数多くの共通点があることから,半世紀にわたって,多彩な分野での交流を深めてきた。また、両市の友好関係の象徴として,毎年10月には,パリの白夜祭に合わせて現代アートの祭典「ニュイ・ブランシュKYOTO」も開催している。

 スペシャル・シリーズ『光と色彩の作曲家 クロード・ドビュッシー』と銘打ち、第22回京都の秋 音楽祭の一環として10月13日から開催される今回の企画は、段階的にドビュッシーを知ることができるものとなっており、ドビュッシーの人生と作品を概観する「初級編」、ベル・エポックのサロンコンサートにスポットをあてた「中級編」、そして、ドビュッシー演奏を得意とするフランスを代表するピアニスト、パスカル・ロジェによる〈前奏曲集第1巻、第2巻〉全曲演奏の「総括編」で構成される。

 4月23日、京都コンサートホールで記者発表が行われ、岡田暁生(第1回ナビゲーター・京都大学人文科学研究所教授)、椎名亮輔(第2回ナビゲーター・同志社女子大学学芸学部音楽科教授)、大嶋義実(第2回出演・京都私立芸術大学音楽学部教授・フルート)が登壇し、ドビュッシーの魅力を語った。
(2018.4/23 京都コンサートホール Photo:M.Terashi/TokyoMDE)

左より)大嶋義実、椎名亮輔、岡田暁生

 第1回 「ドビュッシーの“ド”から“シ”まで」(10/13)は、ピアノの中川俊郎と小坂圭太を招き、生演奏とともに岡田暁生がドビュッシーの“いろは”を解説。これを聴けばドビュッシーのすべてがわかる、「A to Z」ならぬ「ド、から、シ」というわけだ。

■岡田暁生
 ナビゲーターを務めるにあたって、初級編だからといって妥協はしたくない。初心者にこそ、「本物」、「コアなもの」を聴かせないと、本当の良さはわからない。妥協のないプログラムで、演奏者にもこだわりました。
 中川俊郎さん、小坂圭太さんのお二人に出演いただけるなら、という条件でナビゲーターを引き受けました。中川さんは、本業は作曲家ながら、プロのピアニストも一目置く腕の持ち主。

 ドビュッシーはとてもエロティックな作曲家。芸術を通じてエロスを表現した作曲家。と同時に「破壊者」でもあった。出発点は、確かに印象派的な雅なベル・エポックの世界だったに違いない。けれども、従来の音楽を根底から破壊し再構成した作曲家。絵画で言えば、印象派からキュビズムにまで至った、それがドビュッシー。
 パリは、それ自体が巨大な貴族的なサロン。閉鎖的ななかでも芸術の醍醐味がわかる人々が芸術を育てた。そうした人々がドビュッシーに惹かれたのは、彼が「創造と破壊の作曲家」だったから。

 印象派の色の世界から始まって、最後には水墨画の世界にまで至ったのがドビュッシー。今回のシリーズにも《光と色彩の作曲家》と書かれてますが、ステレオタイプにドビュッシーを雅な鮮やかな色の世界とするのに異を唱えたかった。だから、絶対プログラムに《白と黒とで》は入れようと思った。《白と黒とで》は、第1次世界大戦中の作品。大量破壊兵器を使った戦争が進むにしたがって、ドビュッシーの作品からどんどん色がなくなるんですね。色がどんどん削ぎ落とされていって、最後は白と黒でしか語ろうとしない。余計な色を使わない。とても和の世界に近い、必要なことしか言わない。でも、たまにかつての色彩的な世界が一瞬キラリ、と現れるところなど、堪らないです。

■中川俊郎&小坂圭太(ピアノ)インタビュー動画

 第2回 「ベル・エポック〜サロン文化とドビュッシー〜」(11/13)は、「ベル・エポック(良き時代)」と呼ばれた20世紀パリのサロンで演奏されていたであろう作品をプログラミングした。

■椎名亮輔
 選りすぐった芸術家を自宅に招いて、サロンを開くのを競い合っていた時代。サロンと言うとどこか通俗的と思われがちですが、まったく逆。サロンでの演奏が支援であり、試演でもあった。サロンをへて、大劇場での演奏会へとつながり、楽譜が出版された。こうした陰の部分に光をあてて解説したい。

 パリは外国人に冷たいとよく言われますが、コスモポリタンでもある。ピカソやモンポウはスペイン人だし、ストラヴィンスキーが評価され、ロシア・バレエ団が一番活躍したのもパリ。サロン文化、メセナがさかんに擁護した芸術は、面白ければいい、前衛であればよい、というものだった。特にドビュッシーのオペラ《ペレアスとメリザンド》はショッキングだったらしいけれども、21世紀のいまでも《ペレアス》は前衛ですよね。
 爆発的な芸術の革命が起こった時期。そこで活躍したのが、サティ、ラヴェル、ストラビンスキー、ドビュッシーであり、ピカソ、トリスタン・ツァラ・・・だった。

 ドビュッシーが愛したハープとフルートという楽器は、古代からあるもの。古代に目を向けたとき、自由に創造できたのではないか。若い頃、古代に憧れ、神秘主義にものめり込んだ。エロティックという視点でも、古代のことであればいくらでもヌードが描けた。「牧神」もマラルメの詩がエロティックだし、ビリティスの歌も非常にエロティックで,様々な隠喩が込められている。芸術でなければ表現できない世界。

■岡田暁生
 永野英樹さんのピアノが聴けること、それ自体がもう「事件」です!永野さんは小坂圭太さんの同門(後輩)ですが、小坂さんからは「永野さんが13、4歳ごろ東京藝大の先生のところに連れてこられて、演奏を間近で聴いたとき、藝大のピアノ科の学生みなピアノを辞めようと思った」と何回も聞かされいます。
 ヨーロッパで活躍していて日本に帰る機会がほとんどないばかりか、ご自身に商業的に売り込む気があまりないので、日本で聴ける機会が少ない。だから、彼が聴けること自体が貴重です。

■大嶋義実
 「フルートとヴィオラ、ハープのためのソナタ」がまずは注目です。ドビュッシー晩年の傑作です。これを京都で聴く意味を考えたとき、京都でしか聴けない、いまが旬の演奏家を集めたいと考えていましたが、運良く、福井麻衣(ハープ)さん、細川泉(ヴィオラ)さんが日本に帰ってくるタイミングで演奏会が開けることになった。いま日本で一番旬のハープとヴィオラが聴ける最初の機会じゃないか。この二人を聴くだけでも京都に来る価値があると思っています。
 ドビュッシーは作曲の先生から「すべてがめちゃくちゃだけど、才能はある」と言われていたらしい。「和声がどこから来てどこへ行こうが知った事じゃない」というようなことを言っていますが、機能的な和声を離れて、神話の世界に遊んだ作曲家だと思う。 
 神々の住む世界の音楽はどんなものだろう?と考えて創った曲が「牧神の午後への前奏曲」。この曲、オーケストラ作品でありながら、最初に出てくる音はフルートの「ド♯」だけ。フルートで「ド♯」というのは、一番吹くのが難しく、フルート奏者がみな出したくない音なんです。どこか不安定で、空虚な音。
 ドビュッシーは神々の世界とつながりたかったのだと思う。神々とつながるにはフルートが最適だった。ギリシャ神話に出てくるパン(笛)ですね。
 「フルートとヴィオラ、ハープのためのソナタ」について、ドビュッシーは「おそろしく悲しい、音楽」という言葉を遺しています。「おそろしく悲しい、音楽」とは何か?第1次世界大戦でフランスがどうなるかわからない、ドビュッシー自身も病に冒され、神々に夢見たエルドラドはどうなるんだ?という想いが込められていると思う。
 水墨で描ききった絵画に、最後に金粉をパラリ、と落としたかのような世界、それがこの作品のように思う。ドビュッシーが自分の音楽を象徴するものとして使っていた楽器がフルートとハープでした。

■福井麻衣(ハープ)演奏動画

 第3回 「ドビュッシーが見た風景」(11/23)では、シリーズの総括編として、世界的ピアニストのパスカル・ロジェを招いてのピアノ・リサイタル。ドビュッシーのイマジネーションの結晶とも言うべき《前奏曲集 第1集・第2集》全曲が披露される。

■パスカル・ロジェインタビュー&演奏動画

■第22回京都の秋 音楽祭
京都・パリ友情盟約締結60周年/日仏友好160周年
ドビュッシー没後100年 
スペシャル・シリーズ『光と色彩の作曲家 クロード・ドビュッシー』

●第1回 「ドビュッシーの“ド”から“シ”まで」
2018年10月13日(土)14:00 京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ

[出演]
岡田暁生(ナビゲーター・京都大学人文科学研究所教授)
中川俊郎、小坂圭太(ピアノ)

〜オール・ドビュッシー・プログラム〜
《小組曲》より〈小舟にて〉
《2つのアラベスク》より 第1番
《夜想曲》より 第2曲〈祭り〉(2台ピアノ版)
《弦楽四重奏曲》op.10より 第1, 2楽章(4手連弾版)
《ピアノのための12の練習曲》より 抜粋
《白と黒とで》
ほか

全席指定 一般 3,000円
U-30 1,500円(当日座席指定 ※要証明)

●第2回 「ベル・エポック〜サロン文化とドビュッシー〜」
2018年11月10日(土)14:00 京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ

[出演]
椎名亮輔(ナビゲーター・同志社女子大学学芸学部音楽科教授)
サロメ・アレール(ソプラノ)永野英樹(ピアノ)大嶋義実(フルート)福井麻衣(ハープ)石川静(ヴァイオリン)細川泉(ヴィオラ)

フォーレ:ヴェニスの5つの歌
ラヴェル:シェエラザード
ドビュッシー:ビリティスの3つの歌
イベール:2つの間奏曲
ドビュッシー:フルートとヴィオラ、ハープのためのソナタ 
ほか

全席指定 一般 4,000円
U-30 2,000円(当日座席指定 ※要証明)

●第3回 「ドビュッシーが見た風景」
2018年11月23日(金・祝)14:00 京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ

[出演]
パスカル・ロジェ(ピアノ)
鶴園紫磯子(プレトーク・桐朋学園大学講師)

ドビュッシー:《前奏曲集》第1集, 第2集

全席指定 一般 5,000円
U-30 3,000円(当日座席指定 ※要証明)

チケット一般発売…6月9日(土)〜

問:京都コンサートホール 075-711-3231
https://www.kyotoconcerthall.org/debussy2018/

  • La Valseの最新記事もチェック

    • 11/13 新居由佳梨(ピアノ) 公演にむけたメッセージ
      on 2019/10/18 at 15:40

      ピアニストの新居由佳梨が、11月13日に東京オペラシティ リサイタルホールでソロとデュオ(共演はチェロの西谷牧人)のリサイタルを開催する。フランクとバッハを核とした内容となっており、今回の公演にあたり、メッセージをいただきました。 【動画メッセージ】新居由佳梨 ピアノリサイタル ぶらあぼ本誌11月号&WEBぶらあぼでもインタビュー記事を公開中。 新居由佳梨(ピアノ) profile 新居由 [&#8230 […]