演出家・田尾下 哲がオペラ《セヴィリアの理髪師の結婚》映像配信について語る(2)

 ロッシーニ《セヴィリアの理髪師》とモーツァルト《フィガロの結婚》を繋いでひとつの作品にする、という田尾下哲シアターカンパニーによる《セヴィリアの理髪師の結婚》。そもそも田尾下がこのアイディアを思いついたのには、どんな理由があったのだろうか。
「僕は師であるミヒャエル・ハンペから、オペラの演出をする際には必ず原作を研究するように、と言われてきました。そこで、この2作品についてもボーマルシェが書いた原作を読みましたが、オペラの中には描かれていない部分がたくさんあることに気づきました。また、《フィガロの結婚》を上演する時には、その前日譚である《セヴィリアの理髪師》のストーリーをきちんと読み込んでいないと理解できないこともあります。そこで、《セヴィリア》から《フィガロ》へ、という流れを一度ひと続きにして構成し直してみたい、という思いはずいぶん前からあったんです」

左から:三宅理恵(スザンナ)、大山大輔(フィガロ)、黒田祐貴(伯爵・フィガロの結婚)
撮影:寺司正彦

 そのアイディアを演出家の家田淳に持ちかけたのが2015年。そこから二人で構成を考え、家田がボーマルシェからセリフを抜き出して台本を作り、16年の初演となった。実際に上演するにあたり強く感じたのは、モーツァルトとロッシーニの音楽のスタイルの違いだと田尾下は語る。
「時代的にはモーツァルトの方が古いですが、音楽のスタイルは断然新しい。セリアでもブッファでもない革新的な音楽を書いている。一方でロッシーニは、いい意味で古いというか、伝統的なオペラのスタイルを守っているんです。この面白さは並べてみて初めて気づきました。だからこそ、当初はスタイルの違う2つの作品を歌える歌手がいるか、という心配がありました。特に、ロジーナ(《セヴィリア》)と伯爵夫人(《フィガロ》)、そしてフィガロの二人はキャラクターも表現もまったく違うので、通してひとりの人が歌えるのかが不安だったのですが、このプロダクションでは初演からずっとひとりの歌手が歌っています。そういう歌手に出会えたのもとても幸運だったと思います」

左から:村松恒矢(フィガロ)、田中大揮(バルトロ)、磯地美樹(マルチェリーナ)
撮影:寺司正彦

《セヴィリアの理髪師の結婚》リーディング&コンサート公演より
左:森 雅史(バジリオ・セヴィリアの理髪師) 右:升島唯博(バジリオ/クルツィオ・フィガロの結婚)
撮影:寺司正彦

 今回はトリプルキャストでの上演。初演・再演の際に出演しているメンバーとしては、ロジーナ/伯爵夫人の嘉目真木子、青木エマ(初演・再演ではケルビーノ役)、フィガロの村松恒矢、マルチェリーナの磯地美樹、バジリオンズ(両作のバジリオが同時に登場するコンビ名!)の森雅史・升島唯博がいる。田尾下が歌手をキャスティングする際に、もっとも大切にしているのは「この役を通じて表現したいことがある」という意識だというが、本作に関してはまさに、声のテクニックだけでなくそのキャラクターを自分の声で演じ分ける力のある歌手が揃ったといえるだろう。

大山大輔(フィガロ)
撮影:寺司正彦

《セヴィリアの理髪師の結婚》リーディング&コンサート公演より
撮影:寺司正彦

 時に大胆な読み替えも行う田尾下演出だが、実は常に「楽譜に何が書かれているのか」というところが出発点だ。「楽譜に書かれたものを読み取ることが音楽のリテラシー」だとすれば、田尾下哲ほど「音楽のリテラシー」に忠実な演出家はいない。だから彼は「作曲家が解釈したものの方が、演出家の解釈より強いし、それこそが芝居や映画とは違うオペラの根本だと思う」と自信を持っていえるのだと思う。

嘉目真木子(ロジーナ)
撮影:寺司正彦

 そんな田尾下哲に改めて、《セヴィリアの理髪師の結婚》という作品の面白さについて語ってもらった。
「原作では《セヴィリア》の3年後に《フィガロ》の物語、という順番になっていますが、本作の音楽のスタイルは新旧が逆になっています。《フィガロの結婚》のロジーナ/伯爵夫人の回想場面から音楽が《セヴィリアの理髪師》に移っていくというスタイルです。また、それぞれの作曲家がどのようにその役をとらえていたのか、というところにもぜひご注目ください。例えばアルマヴィーヴァ伯爵は《セヴィリア》の時には400キロも離れたセヴィリアからマドリッドへロジーナを探しに来るぐらい熱烈な愛情を注いでいたのに、《フィガロ》ではすっかりいやらしい大人になってしまっている。そして前者はテノール、後者はバリトンで書かれているという描き分けの面白さも感じていただけたらと思います。他にも、ロッシーニの珠玉のアジリタに対して、モーツァルトの表情豊かなオーケストレーションなど、音楽のスタイルの違い、声の使い方の違いなど聴きどころは満載です。どうぞ他では味わえないロッシーニとモーツァルトの“夢の競演”をお楽しみください」
取材・文:室田尚子


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演出家・田尾下 哲が手がけるオペラ《セヴィリアの理髪師の結婚》

園田隆一郎(指揮)
撮影:寺司正彦

撮影:寺司正彦


【予告動画】

予告編/序曲バージョン

予告編/合唱バージョン

配信直前スペシャルインタビュー!/園田隆一郎(指揮)× 田尾下 哲(演出)


【Information】
オペラ《セヴィリアの理髪師の結婚》
—リーディング&コンサート公演—

[CAST-A] 11/2(月)
[CAST-B] 11/3(火・祝)
[CAST-C] 11/4(水)
各19:00〜 配信開始

※配信開始日含む最大7日間(配信終了日まで)、購入公演のみ何度でも視聴可能

視聴券:各¥2,000(チケット手数料別途)

指揮:園田隆一郎

構成・演出:田尾下 哲
構成・台本:家田 淳

ピアノ:星 和代

出演
フィガロ:村松恒矢(11/2,11/4) 大山大輔(11/3)
スザンナ:全 詠玉(11/2)三宅理恵(11/3,11/4)
伯爵(セヴィリアの理髪師) :髙畠伸吾
伯爵(フィガロの結婚) :黒田祐貴
ロジーナ:嘉目真木子(11/2,11/4)青木エマ(11/3)
ケルビーノ:石田 滉(11/2)杉山由紀(11/3)一條翠葉(11/4)
バルトロ:田中大揮
マルチェリーナ:磯地美樹(11/2,11/4)鳥谷尚子(11/3)
バジリオ(セヴィリアの理髪師):杉尾真吾(11/2)森 雅史(11/3,11/4)
バジリオ/クルツィオ(フィガロの結婚):吉田 連(11/2)升島唯博(11/3,11/4)


販売期間:10/17(土)10:00〜
11/8(日)12:00まで(CAST-A)、11/9(月)12:00まで(CAST-B)、11/10(火)12:00まで(CAST-C)

アーカイブ配信:配信開始日含む最大7日間(配信終了日まで)、購入公演のみ何度でも視聴可能
※配信終了日:CAST-A 11/8(日)23:59、CAST-B 11/9(月)23:59、CAST-C 11/10(火)23:59

チケット(視聴券)購入
CAST-A:https://eplus.jp/sf/detail/3331050001-P0030001
CAST-B:https://eplus.jp/sf/detail/3331100001-P0030001
CAST-C:https://eplus.jp/sf/detail/3331130001-P0030001

問:田尾下哲シアターカンパニー 03-6419-7302(ノート内)
http://tttc.jp/le-nozze-del-barbiere-di-siviglia2020/