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取材・文:林昌英
2026年9月、フランツ・シュミット「7つの封印の書」の2つの楽団での連続上演。先行したファビオ・ルイージ指揮NHK交響楽団の上演が空前の成功を収めてからわずか数日、続く東京交響楽団が上演に向けて始動した。
東響を指揮するのは今年度から第4代音楽監督に就任したロレンツォ・ヴィオッティ。東響とは早くも任期を5年延長して2034年までの契約が発表されたばかり。この大作を各地で振ってきたルイージに対して、ヴィオッティは初の指揮となるが、ウィーン楽友協会合唱団の一員として、かのアーノンクールの指揮で歌ったという無二の経験がある。

この公演は、降り番にも関わらず応援に駆けつけ、スコアを手に客席でバランスを見ていた
17日夜、ミューザ川崎シンフォニーホールで行われたステージリハーサルは、オーケストラと合唱団が合わせる最初の練習だった。150人超の東響コーラスは舞台後方の席で歌う。ソロ歌手の配置は調整中とのことだが、この日の終了時点では「ヨハネ」はテューバ横、「神の声」は合唱後方のパイプオルガン前。オルガンのコンソールは舞台下手のヴァイオリンの後ろに置かれ、その前に4人の独唱ソリストが並ぶ。
本作の中心となる「ヨハネ」はマキシミリアン・シュミット。取材の枠では多くは歌わなかったが、バッハの福音史家役やこの「ヨハネ」役を幾度も歌ってきた安定感、落ち着きのある豊かな声はこの役のイメージ通り。「神の声」のフランツ=ヨゼフ・ゼーリヒも、名門楽団との共演の多い名バス歌手。同役はルイージとの共演歴もあるが、今回は若きヴィオッティのもと、深き美声で威厳と風格を示す。4人のソロ歌手も、全員単独で公演が成立する欧州の名歌手が並ぶ、贅沢な布陣。やはり取材時の出番は多くなかったが、その一瞬で惹き込まれてしまうような名唱で、本公演も大いに期待していい。舞台で弾く大木麻理のオルガンも注目で、ホールのインタビュー記事で自ら触れる「第5の封印」の16分音符の箇所(この日も凄まじいまでの集中力)など聴きどころが多く、長いソロも2つのホールのパイプオルガンで堪能させてくれるはず。

称えるべきは東響コーラスの大健闘ぶり。もとより暗譜での高水準な歌唱は知られているが、リハーサルから暗譜、しかも完璧に歌い上げていたことに驚嘆。あの複雑なフーガを高精度に構築し、パートを細かく分けて取り出しても怯む様子がない。難所のおしまいではヴィオッティが合唱に“投げキッス”をしたほど。東響コーラスの突き詰めるエネルギーが本公演全体のムードを作るだろう。
そして、ロレンツォ・ヴィオッティ。この大作をすでに掌握しているばかりか、場の空気を熱くし、最高のパフォーマンスを引き出すモチベーターとしても卓越した存在。合唱の第一声を「ハレルヤ」で始めたが、彼が合唱団にコメントしたり歌ったり(上手!)する度に声がまとまり、情熱的な身振りを見せることで強さと輝きが加わる。美しい流れのなかでの減和音のエナジー、複雑な展開のなかで4声がまとまる節目での一体感など、合唱とオーケストラの巧みな統制から、オペラのような興奮すら湧き上がる。

©TSO
ヴィオッティのリードに応える東京交響楽団も好調。近年ジョナサン・ノットのもとで大作の経験を積んできた東響は、複雑なスコアをバランスにも配慮しながら精妙に再現する。災厄の場面の表現主義的なサウンドの切れ味も抜群。東響コンサートマスターの小川ニキティングレブは「ヴィオッティさんは何時間練習をやってもエネルギーが変わりません。彼の国スイスの有名な登山家ウーリー・ステックのように、疲れ知らずのパワーがあります。この作品はすばらしい音楽で、オーストリアにハンガリーの要素も感じられます。シュミットの母親がハンガリー人で、コダーイのような瞬間もあると思います。すごく難しい曲で、N響の練習を見に行ったとき、みなさんがすごく準備していたのを見て“私たち、勉強が足りないかも!”とちょっと思ったんですが(笑)、東響のメンバーもみんなすごく勉強してきてくれました!すばらしい公演にしたいですね」とこの機会を楽しんでいる。
2楽団の水準はいずれ劣らぬもので、あとは指揮者のカラーの違い。堂々たる構築のルイージに、グルーヴ感豊かなヴィオッティ。好対照の名演奏を連続して味わえる幸運。なによりも、前回も書いたが、こういう大作こそホールで生の音響を浴びるに限る。残るは2つのホールでの公演のみだ。

《東京交響楽団創立80周年記念》シュミット:オラトリオ「7つの封印の書」
第745回 定期演奏会
2026.9/19(土)18:00 サントリーホール
問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511
https://tokyosymphony.jp
ミューザ川崎シンフォニーホール×東京交響楽団×ロレンツォ・ヴィオッティ
フランツ・シュミット:オラトリオ「7つの封印の書」
2026.9/21(月・祝)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
問:ミューザ川崎シンフォニーホール044-520-0200
https://www.kawasaki-sym-hall.jp/7siegeln/
出演
指揮:ロレンツォ・ヴィオッティ
テノール(ヨハネ):マキシミリアン・シュミット
バス(神の声):フランツ=ヨゼフ・ゼーリヒ
ソプラノ:クリスティーナ・ランツハマー
メゾソプラノ:カトリオーナ・モリソン
テノール:パトリック・グラール
バスバリトン:クレシミル・ストラジャナッツ
オルガン:大木麻理
合唱:東響コーラス
合唱指揮:冨平恭平


