
右:東京交響楽団 第1コンサートマスター 小川 ニキティングレブ
いよいよ本番が迫るN響と東響によるシュミット「7つの封印の書」。わずか1週間違いで稀少な大作に挑む“奇跡の競演”を前に、両楽団のコンサートマスター、長原幸太さんと小川 ニキティングレブさんが語り合いました。作品への率直な印象から、ルイージとヴィオッティとの関係、それぞれのオーケストラだからこそ生まれる違い、聴きどころまで。最後には「ぜひ両公演とも楽しんでほしい」とエールを交わすお二人。本番を前に、期待はいよいよ高まる!
取材・文:高坂はる香 写真:荒川 潤
—今回の「7つの封印の書」はどちらのオーケストラも音楽監督との公演になりますから、信頼関係の中で音楽が生み出されることになりそうですね!
長原 そうですね。普段ファビオは音についてとにかく“Beauty”を求め、絶対に暴力的な音を出すなと言うことが多いので、今回のようなおどろおどろしいシーンも描く作品で彼がどんな表現を要求するのか楽しみなんです。ここでも音は美しくあることを求めるのか、それともはらわたをえぐるような音を要求してくるのか。
N響とファビオという熟成が始まっているコンビと、東響さんと若い才能のヴィオッティという共に歩み始めたばかりのコンビでは、放つエネルギーが全く違うと思います。
ニキティングレブ アプローチが違っておもしろい比較になるでしょうね。それにしても若い指揮者の変化はとても早く、今30代のヴィオッティは、3年前に共演したときと全く変わっていました。ロケットでいうと、打ち上げ時のブースターのような力を感じます。共演を重ねることが楽しみです。
あと、この作品で一番難しいのはコーラスかもしれません。東響コーラスは、日本語でいう“清水寺の舞台から飛び降りる”心境で臨むことになるでしょうね。
長原 そう、普通はオーケストラのサウンドの上で歌いますが、この作品は合唱だけが歌い続ける部分があるから本当に大変そうです。

—作品が描くのは宗教的なテーマなので、日本の文化的環境で育った聴衆には馴染みがない部分もあると思います。どこに着目するとより楽しめるでしょうか。
ニキティングレブ テキストとして用いられている「ヨハネの黙示録」には、人間にとって最大の恐怖である死よりも怖いことがあると記されています。ただ音楽の魔法を感じるのは、言葉で表すとただただ恐ろしい場面も、音楽で描くとそれ以上の何かを届けてくれるところです。
「ヨハネの黙示録」は、現代の人類の問題にも通じる内容はもちろん、誰がどこで書いたのかという歴史をめぐる議論もとても興味深いです。フランツ・シュミットの複雑な人生についても調べるとどんどんおもしろくなりました。みなさんもぜひネットなどで調べることをお勧めします。
長原 私も今回初めて作品を勉強しています。演奏上、技術的に難しいところはそうたくさんありませんが、オルガンの世界から突然ワーグナーのオペラの難しい音楽の中に放り込まれた感覚になるなど、いろいろな作曲家を思わせる要素が次々現れるので、それをつなぐことは少し難しそうだと感じています。
私たちは NHKホールで2公演なので、2日間で積み上げることが楽しみですが、東響さんは2つの異なるホールで演奏されるので、それもおもしろそうですね。
ニキティングレブ 私は普段からサントリーとミューザでは、同じプログラムでも違う弓を使うんです。それくらい響きが違うので。両ホールで全く違う演奏になると思います。
長原 自分の公演の前と後の両方、東響さんの演奏を聴けたら理想なんですけど、僕たちが先なんですよね……。

ニキティングレブ 私、練習を見に行っていいですか?
長原 ぜひ、大歓迎です! 私もヴィオッティの練習見に行きたかったな。
ニキティングレブ N響の西川芸術主幹が、今回上演が重なったことを“惑星直列なみの珍事”とおっしゃっていましたが、子供の頃ヴァイオリニストでなければ天文学の道に進みたいと思っていた私としては、この例えがすごくしっくりきます。本当に驚くべき偶然だけど、東響にとってはラッキーです!当日まで一緒に盛り上げていけたらうれしいです。
長原 お客さんにもぜひ両公演を聴きに来てほしいですね。一緒にがんばりましょう!
ニキティングレブ そうですね。長原さん、公演が終わったら飲みにいきましょうね(笑)!

N響100年特別企画|フランツ・シュミット《オラトリオ「7つの封印の書」》
2026年9月定期公演Aプログラム(第2069回)
2026.9/12(土)18:00、9/13(日)14:00 NHKホール
出演
指揮:ファビオ・ルイージ
ヨハネ(テノール):ミヒャエル・ラウレンツ
神の声(バス):ダーヴィト・シュテフェンス
ソプラノ:迫田美帆
メゾ・ソプラノ:藤井麻美
テノール:伊藤達人
バス:加藤宏隆
オルガン:新山恵理
合唱:新国立劇場合唱団
合唱指揮:冨平恭平
問:N響ガイド 0570-02-9502
https://www.nhkso.or.jp
《東京交響楽団創立80周年記念》シュミット:オラトリオ「7つの封印の書」
第745回 定期演奏会
2026.9/19(土)18:00 サントリーホール(予定枚数終了)
問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511
https://tokyosymphony.jp
ミューザ川崎シンフォニーホール×東京交響楽団×ロレンツォ・ヴィオッティ
フランツ・シュミット:オラトリオ「7つの封印の書」
2026.9/21(月・祝)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
問:ミューザ川崎シンフォニーホール044-520-0200
https://www.kawasaki-sym-hall.jp/7siegeln/
出演
指揮:ロレンツォ・ヴィオッティ
テノール(ヨハネ):マキシミリアン・シュミット
バス(神の声):フランツ=ヨゼフ・ゼーリヒ
ソプラノ:クリスティーナ・ランツハマー
メゾソプラノ:カトリオーナ・モリソン
テノール:パトリック・グラール
バスバリトン:クレシミル・ストラジャナッツ
オルガン:大木麻理
合唱:東響コーラス
合唱指揮:冨平恭平



