
- ▼特集TOP
- 作品解説
- スペシャル対談
- Interview 平野和
- Interviewファビオ・ルイージ
- 事前講座
- コンマス対談【前編】
- コンマス対談【後編】
- リハーサルレポート
- Interview ロレンツォ・ヴィオッティ
2026年に創立80周年を迎える東京交響楽団が、記念シーズンの柱として取り上げるフランツ・シュミットのオラトリオ「7つの封印の書」。音楽監督ロレンツォ・ヴィオッティにとって、この作品との出会いは16年前に遡ります。20歳のとき、ウィーンでアーノンクール指揮の公演に合唱団の一員として参加し、その音楽を歌い手として体験していました。それから時を経て、今度は指揮者としてこの大作に向き合います。若き日に刻まれた記憶は、現在のヴィオッティにどのように息づいているのか。そして、混迷する現代に「7つの封印の書」を演奏する意味とは。作品への思いを聞きました。
取材・文:後藤菜穂子
――ヴィオッティさんは、かつてウィーンでシュミットの「7つの封印の書」をアーノンクールの指揮でお歌いになったそうですね。ウィーン楽友協会合唱団の一員だったのでしょうか?
そのとおりです! 私が20歳のときでしたので、16年前になります。
――そのときのアーノンクールの指揮についてどんな思い出がありますか?
このとき学んだのは、アーノンクールは音楽的な妥協を一切しないということですね。彼はとても要求が厳しく、たとえば第2部の最後のフーガは暗譜で歌ってほしいと言われました。このフーガはとても複雑ですが、暗譜するぐらいでないとまわりで起きていることに引きずられてしまうのです。あと、アーノンクールは目ヂカラがすごかったですね。指揮そのものよりも、目や表情から音楽を読み取ることができました。
また、テクストの重要性も学びました。彼にとってドイツ語は母語だったわけですが、言葉の一つひとつを体現していました。
その当時、だいぶお年を召されていましたが、練習でもずっと立ったまま精力的に指揮され、ユーモアを交えたりドラマがあったり。とても感銘を受けました。
――今回、奇しくも、東京の2つのオーケストラが「7つの封印の書」を上演します。この曲を今の時代に上演する意義についてどう思われますか?
近年、聴衆のみなさんがこの曲に関心を持つようになったことはすばらしいことだと思いますが、それには理由があるのかもしれません。
個人的には、「7つの封印の書」は、単に黙示録とか世の終末についての曲だとは思っていません。むしろ、私たちの理解を超える何かを目の当たりにするという、人間としての体験そのものについての曲なのです。たとえば、ヨハネはこの曲のなかでもっとも重要な人物だと思いますが、バッハの受難曲の福音史家とはちがい、単に何が起きたかを語るのではなく、それを自ら体験し、自身が感じていることを伝えるのです。
すなわち、曲の中でヨハネは、暴力、恐怖、破壊、沈黙、そして最後に希望を目の当たりにしますが、私はずっと、私たちがこの道のりのすべてを彼を通して経験しているような気がしていました。それはオラトリオとしてはかなり現代的なのではないかと考えています。

――この巨大な作品を指揮する上での難しさはどんな点でしょうか?
たとえば、「最後の審判」の場面でシュミットは壮大なフーガを書いていますが、それはとてつもなく複雑で、力強く、そして劇的であり、オーケストラおよび合唱、そして聴衆にとっても大きなチャレンジだと思います。でもこうした混沌の背後にも秩序があって、演奏者は自分が圧倒されることなく、冷静に正確に演奏しなければなりません。そこに、今、この曲を演奏する意義があると思います。
私たちは今、戦争や破壊、恐怖、不安といった光景に絶えず直面している時代を生きており、まるで身の回りのすべてがますます分断されていくかのように感じることがあります。この作品では、そうした暗黒ののちに、一瞬の沈黙があり、やがて光が差してくるのです。最後の「ハレルヤ」では、神の力だけではなく、混沌が最後まで支配するのではないことを祝うのだと思います。
――この作品を通して観客に何を感じ取ってほしいですか?
人間社会と同じく、この作品には多くの苦しみが描かれています。でも、だからこそ、この作品は今、私たちに語りかけるのだと思います。今の時代、とりわけテクノロジーによって私たちは分断され、触れ合うことが減り、物事を信じなくなっています。でも、この曲は超越的な力(force)が存在することを示しており、キリスト教徒でなくてもそれは感じ取ることができると思います。この曲はきわめて人間的な作品なのです。
――東京交響楽団の音楽監督に就任されてから5ヵ月ほどたちました。感触はいかがですか?
オーケストラの音楽監督になるということは、つまり、楽団員とともに歩む旅路に責任を負うということです。それは楽団、聴衆、都市、そしてコンサートホールに対し、長年にわたり責任を負うことを意味します。単に交響曲を指揮することではありません。もちろん演奏のクオリティと、聴衆にどんな感情を伝えるかということはもっとも重要なことです。しかし、その背後にある、音楽家やスタッフとの関係や聴衆との信頼関係――これらは、音楽監督という立場になるとまったく別の次元のものになります。私は楽団員に自分を「マエストロ」と呼ばないでほしいとお願いしました。距離が生じると思うからです。コンサートでは絶対的な信頼が必要です。
東京交響楽団には、初めて出会ったときから特別なものを感じていました。楽団員の熱意と好奇心、度量の広さ、情熱に加えて、スタッフのみなさんの献身と支援のおかげで、どの公演も刺激に満ちています。今後、さらに信頼を深めることによって、リスクをとり、お互いの声に耳を傾け、音楽的に、そして人間として成長し続けることができると思っています。

《東京交響楽団創立80周年記念》シュミット:オラトリオ「7つの封印の書」
第745回 定期演奏会
2026.9/19(土)18:00 サントリーホール
問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511
https://tokyosymphony.jp
ミューザ川崎シンフォニーホール×東京交響楽団×ロレンツォ・ヴィオッティ
フランツ・シュミット:オラトリオ「7つの封印の書」
2026.9/21(月・祝)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
問:ミューザ川崎シンフォニーホール044-520-0200
https://www.kawasaki-sym-hall.jp/7siegeln/
出演
指揮:ロレンツォ・ヴィオッティ
テノール(ヨハネ):マキシミリアン・シュミット
バス(神の声):フランツ=ヨゼフ・ゼーリヒ
ソプラノ:クリスティーナ・ランツハマー
メゾソプラノ:カトリオーナ・モリソン
テノール:パトリック・グラール
バスバリトン:クレシミル・ストラジャナッツ
オルガン:大木麻理
合唱:東響コーラス
合唱指揮:冨平恭平


