若き名匠ピエール・デュムソーが紀尾井ホール室内管と探求する、《カルメン》の新たな響き

©阿部章仁

 フランス指揮界の逸材、ピエール・デュムソーが、2年ぶりに紀尾井ホール室内管弦楽団に登場する。これまで日本ではフランス近代曲のスペシャリストとして、同楽団のほか、OEKや京響などを指揮して好評を博してきたが、母国では、ボルドー国立歌劇場のアシスタント指揮者を務めたのを皮切りに、主に劇場畑を歩んでおり、この秋からはルーアン・ノルマンディー・オペラ管弦楽団の音楽監督に就任する。

 その意味で、11月の定期演奏会のプログラムでは、彼のコンサート指揮者としての顔と劇場指揮者としての顔を両方堪能できる。前半はイベールの「ディヴェルティスマン」とプーランクの「シンフォニエッタ」を取り上げ、後半は、ビゼーのオペラ《カルメン》を〈デュムソー・セレクション〉という形で、これが日本デビューとなる注目のメゾソプラノ、エヴァ・ザイチクを迎えて演奏する。ザイチクとは、《カルメン》の初演を歌ったセレスティーヌ・ガリ=マリエにまつわる曲を集めたディスクでコラボした縁だ。

 「《カルメン》は世界的にも上演回数の多いフランス・オペラですが、それでも演奏するたびに新しい発見があります。特にビゼーの時代のオーケストラの演奏法に関心があり、どうすれば当時の響きに近づけるか、オーケストラと一緒に探りたいと思っています」と語る。

 「歌手一人とオーケストラで上演するのは簡単ではありませんが、バラエティ豊かなセレクションを心がけました。カルメンが歌うアリアはすべて入っていますし、ギローが編曲した2つの組曲の音楽も用い、さらに通常オーケストラ・コンサートでは扱わないナンバーもいくつか取り上げます。ザイチクさんも因習にとらわれない、フレッシュなカルメン像を作り出してくれることでしょう」

 実は、デュムソーの音楽家としての出発点はファゴットで、パリ音楽院時代に指揮に転向した。

 「ファゴット吹きとして、オーケストラの内側から多くの指揮者を観察するなかで、指揮者の考えに同意できなかったり、別のやり方があるはずだと感じたりするようになって、それなら自分でやるしかないと指揮の道に入りました。でも実際にオーケストラの前に立ってみると、案外聞こえづらいことに気づいたのです。自分がやりたいことと実際に聞こえてくる音を手の動きによって調整するのはきわめて難しいことなんです。だからこそ、私はつねに謙虚でありたいですし、音楽家を信頼して音楽を作りたいと思っています」

 オペラ経験豊かなデュムソーと紀尾井ホール室内管の精鋭たちがタッグを組むことで、従来とは一味違った《カルメン》の世界が立ち現れるにちがいない。

取材・文:後藤菜穂子

(ぶらあぼ2026年9月号より)

紀尾井ホール室内管弦楽団 第148回 定期演奏会
2026.11/14(土)14:00 東京オペラシティ コンサートホール
問 紀尾井ウェブチケット webticket@nipponsteel-kioihall.jp
https://nipponsteel-kioihall.jp


後藤菜穂子 Nahoko Gotoh

桐朋学園大学音楽学部卒業、東京藝術大学大学院修士課程修了。音楽学専攻。英国ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジ博士課程を経て、現在ロンドンを拠点に音楽ライター、翻訳家、通訳として活動。『音楽の友』、『モーストリー・クラシック』など専門誌に執筆。訳書に『〈第九〉誕生』(春秋社)、『クラシック音楽家のためのセルフマネジメントハンドブック』(アルテスパブリッシング)他。
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