ぶらあぼブラス!Vol.50 岡山学芸館高等学校吹奏楽部(岡山県)
クラシックの本場で快挙を達成! 吹奏楽の新たなページを開く

取材・文・写真:オザワ部長(吹奏楽作家)

プラハ国際吹奏楽コンクールへの挑戦

 フィリップ・スパーク作曲《宇宙の音楽》の演奏が終わると同時に、会場に盛大な歓声と拍手が巻き起こった。ピーッという指笛も鳴り響く。

「やりきった」というように笑みを浮かべながらステージ上で立ち上がったのは、制服に身を包んだ日本の高校生たち。

 そこは全日本吹奏楽コンクールの会場——ではなかった。チェコ共和国の首都、プラハだったのだ。

 岡山学芸館高校吹奏楽部といえば、「吹奏楽の甲子園」と呼ばれる全日本吹奏楽コンクールで金賞を8大会連続受賞中。今年もすでに11月1日におこなわれる全国大会への出場を決めている、高校吹奏楽界のトップバンドだ。

 その岡山学芸館が、今年6月にチェコで開催された「第27回プラハ国際吹奏楽コンクール」に初挑戦した。

 海外でのコンクールに出場を決めた経緯を、顧問の中川重則先生はこう明かす。

「隔年で海外に研修旅行に行っているのですが、国際情勢の影響で今年3月の旅行が中止になってしまったんです。代わりに何かしてあげられたらと思っていたとき、チェコでコンクールがあると知り、せっかくなので挑戦してみようということになったんです」

 一時は気落ちしていた生徒たちも明るさを取り戻したという。

「せっかくだから、海外の人たちに楽しんでもらえるようにきっちり音楽をつくりあげよう、という気持ちで準備をしました」

 学校や組織でカテゴリ分けされる日本のコンクールとは違い、プラハ国際では年齢制限がなく、国際的なレベルを有するアマチュア楽団が参加可能。各団体は45分の持ち時間で入退場と演奏をおこなう。ジャッジは課題曲と自由曲を10項目で細かく採点するというシステムだ。

 地元チェコをはじめ、ドイツ、ハンガリー、ポーランドなどからさまざまなバンドがエントリー。日本からは岡山学芸館のみだった。

今年6月、チェコで開催されたプラハ国際吹奏楽コンクールでの様子

クラシックを愛する高校生たち

 チェコといえば、クラシック音楽の本場だ。

 日本の吹奏楽というと「クラシックやオーケストラとは似て非なるもの」と思われることがあるが、実は岡山学芸館の部員たちは日ごろからクラシックに親しんでいる。

 3年でトランペットのトップ奏者を務める大東こころがその理由を教えてくれた。

「吹奏楽部のみんながクラシック好きです。中川先生がクラシックマニアで、学校にたくさんCDやDVDがあるんです。私が最近ハマっているのはドヴォルザークの《交響曲第9番》です」

 同じく3年で部長の田渕唯人(バストロンボーン)は、「いまは自分の中でマーラーのブームが来ていて、《交響曲第3番》《交響曲第5番》が好きです」と語るが、チェコでのコンクール出場の話を聞いた当初は戸惑ったそうだ。

「プラハ国際吹奏楽コンクールのことはまったく知りませんでした。日本のコンクールとは仕組みがいろいろ違うし、ヨーロッパの人は耳が肥えているんだろうな、と少し心配でした」

 こころにとっても、海外のコンクールや吹奏楽団は未知のものだった。

「ヨーロッパのバンドは凄腕の人がめっちゃ集まってて、ガタイがいい人がいっぱいおるんかな……と。実際、現地では特にラッパ(トランペット)はみなさんごつくて、見るからに演奏がうまそうという感じでした」

 音楽の本場で日本のトップバンドはどんな評価を受けるのか——。

 岡山学芸館の挑戦が始まった。

30分にわたる演奏で受けた喝采

 持ち時間45分間のうちの約30分間を演奏に使い、課題曲《モラヴィア組曲》と自由曲《宇宙の音楽》を演奏した。日本の吹奏楽コンクールでは12分間で2曲を演奏するが、その2倍以上の演奏時間だ。それだけスタミナや集中力が必要とされる。

 3年の副部長、クラリネットを担当する小林叶和(きょうか)は課題曲と自由曲でソロを担当した。

「課題曲の冒頭にクラリネット2本のソロがあったんですが、練習ではペアの子と何度も試行錯誤を繰り返していて。『これだ!』というのをつかんで、プラハのコンクールに臨みました。私は本番になると緊張してしまうタイプなのですが、演奏はうまくいきました。2曲を吹き終えたあと、ペアの子と『やったね!』と喜びあったのが思い出に残っています」

 3年でアルトサックスを担当する豊田綸(いと)は、その叶和たちのソロを耳で感じていた。

「課題曲はフルート2本のソロ、クラリネット2本のソロがうまくいき、そのいい流れに乗って気持ちよく吹くことができました。自由曲の《宇宙の音楽》は長く練習してきた曲で、技術的に難しいところもありましたけど、いろいろとこだわってつくり上げてきました。『全部成功させたい!』と思いながら演奏しました」

 岡山学芸館の演奏が終わると、観客は拍手喝采や指笛で日本から来た高校生たちを盛大に称賛した。

 そして、表彰式。なんと岡山学芸館は100点満点で96.1点を獲得し、総合優勝(第1位)に輝いた。さらには「Symphonic Wind Bands」部門の部門別優勝・課題曲最優秀演奏賞に加え、顧問の中川先生が最優秀指揮者賞を受賞した。

賞状とトロフィーを手に持って。
左より:田渕唯人さん、豊田綸さん、小林叶和さん、大東こころさん、中川重則先生

 日本の吹奏楽の力がヨーロッパで、プラハで認められたのだ。叶和はこう振り返る。

「結果はうれしかったし、いい演奏を届けられたんだなと思えました。日本のコンクールでは競い合うほうに考えがいってしまいがちですが、プラハのコンクールはオープンでフレンドリーな雰囲気。これが音楽なんだと思えました」

 演奏前から各国のバンドにエールを送られ、表彰式ではみんながお互いを称えた。最後はチェコの行進曲を全員で合奏し、中川先生が急遽指揮を任された。それが終わると、誰彼かまわず記念写真を撮りあった。

 ヨーロッパの吹奏楽界が持つ空気感を全身で吸収し、岡山学芸館はチェコでのコンクールを終えたのだった。

 その後、岡山学芸館はオーストリアに移動し、由緒正しきウィーンの楽友協会でもコンサートを開催。好評を博して、岡山への帰路についた。これ以上ないほど充実した遠征だった。

ウィーン 楽友協会での演奏の様子

全国大会でも「音で語る」演奏を

 いま、岡山学芸館は全日本吹奏楽コンクールを控えている。

 今年の自由曲はアルフレッド・リード作曲《アルメニアン・ダンス Part I》だ。

 吹奏楽史に輝く名曲中の名曲を取り上げることを、綸は「挑戦」と表現した。

「吹奏楽をやっている人なら誰でも知っている曲です。だからこそ、すべての音符、すべての小節にこだわりを持って、学芸館にしかできない演奏をしたいです」

 こころはプラハで学んだことを全国大会でも活かしたいと考えている。

「ヨーロッパのバンドでは、自分のやりたい音楽を120パーセント出すことを大事にしているような気がしました。最大限に表情を出し、人に伝え、音で語る——学芸館が目指しているのもそこなんだと気づきました。次は全国大会ですが、守りに入らず、私たちも『音で語る』演奏を実践したいです」

 プラハ国際吹奏楽コンクールへの初挑戦を通して、部員たちが五感で学んだ音楽の本質は、岡山学芸館の新たな武器になりそうだ。

 クラシックの本場を唸らせた高校生たちとマエストロ・中川先生はいま、吹奏楽の新たなページを開こうとしている。


『吹部ノート —12分間の青春—』
オザワ部長 著
ワニブックス

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オザワ部長 Ozawa Bucho(吹奏楽作家)

世界でただひとりの吹奏楽作家。
ノンフィクション書籍『とびたて!みんなのドラゴン 難病ALSの先生と日明小合唱部の冒険』が第71回青少年読書感想文全国コンクールの課題図書に選出。ほか、おもな著書に小説『空とラッパと小倉トースト』、深作健太演出で舞台化された『吹奏楽部バンザイ!! コロナに負けない』、テレビでも特集された『旭川商業高校吹奏楽部のキセキ 熱血先生と部員たちの「夜明け」』、人気シリーズ最新作『吹部ノート 12分間の青春』など。