
右:矢部達哉 ©T.Tairadate
すぎやまこういち(1931〜2021)といえば「歌謡曲の作編曲家」「ドラゴンクエストの交響組曲」というイメージが強いかも知れないが、2つのキャリアのあいだに残された重要な仕事がアニメ『伝説巨神イデオン』(1980〜81)だ。『機動戦士ガンダム』のテレビ放送を終えたばかりの富野由悠季が手掛けたロボットアニメに、すぎやまはロックやジャズのサウンドを取り入れた壮大なオーケストラサウンドをあてがった。この素材を作曲者自身が再構成して全4楽章、40分近い大作となったのが交響曲「イデオン」だ。オーディオ交響曲第1〜2番に続く、すぎやまにとって3番目の交響曲である。親しみやすい抒情的な旋律を基調としながらも、すぎやまが少年時代から愛したプロコフィエフやストラヴィンスキーら、20世紀前半のロシア・ソ連出身の作曲家の系譜に位置づけられる傑作だ。
他にも『イデオン』の劇場版のために書かれた名曲「カンタータ・オルビス」を贅沢にも新国立劇場合唱団が歌い、すぎやまと都響の密な結びつきを象徴するコンサートマスター・矢部達哉のために書かれた協奏曲まで披露される。指揮を務める都響・音楽監督の大野和士は、すぎやまへの追悼として演奏された交響組曲「ドラゴンクエストⅡ」の〈レクイエム〉で真摯な名演(都響のYouTubeで聴くことができる!)を披露しているので今回も期待して良いだろう。すぎやまこういちの真価を体感できる、絶対に聴き逃がせない公演だ!
文:小室敬幸
(ぶらあぼ2025年10月号より)
創立60周年記念 都響スペシャル「すぎやまこういちの交響宇宙」
2025.10/19(日)15:00 東京芸術劇場 コンサートホール
問:都響ガイド0570-056-057
https://www.tmso.or.jp

小室敬幸 Takayuki Komuro
1986年、茨城県出身。東京音楽大学で作曲を学んだ後、同大学院では音楽学を専攻。修了後は大学の助手と非常勤講師を経て、現在は音楽ライター。クラシック音楽、現代音楽、ジャズ、映画音楽を中心に演奏会やCDの曲目解説、雑誌やWEBメディアにインタビュー記事を執筆。また、現在進行形のジャズを紹介するMOOK『Jazz The New Chapter』にも寄稿している。共著に『聴かずぎらいのための吹奏楽入門』『ピアノへの旅』。


