第9回仙台国際音楽コンクール ヴァイオリン部門 最高位入賞ムン・ボハに聞く

5月24日からスタートした第9回仙台国際音楽コンクール ヴァイオリン部門。6月5日から7日にかけて行われたファイナルに進出したコンテスタントは、6人中5人がなんと10代! 本コンクール史上、最も平均年齢の若いファイナリストたちによる熱演が繰り広げられました。
そして見事、最高位・第2位に輝いたのは、2006年生まれの19歳、韓国出身のムン・ボハ(MOON Boha)さん。ファイナルではブルッフ「スコットランド幻想曲」で情熱あふれる見事な演奏を披露しました。最終日に行われた入賞者記念ガラコンサートの翌朝、コンクールの熱気も冷めやらぬ中、音楽ライターの片桐卓也さんにお話を聞いていただきました。
(2025.6/9 仙台市内某所)
授賞式より
左:堀米ゆず子(審査委員長) 右:ムン・ボハ

——最高位(第2位)の獲得、おめでとうございます。まず、今回の仙台国際音楽コンクールに参加しようと思った理由を教えてください。

ムン このコンクールのことは以前から知ってはいましたが、昨年の秋に実際に強く興味を持ち、リサーチを始めました。通常のコンクールでは協奏曲を演奏できるのはファイナルだけですが、仙台国際音楽コンクールでは予選からオーケストラと共演できて、しかも課題曲が私の大好きな作曲家であるモーツァルトだったので、今回ぜひ受けてみたいと思いました。

——その課題曲の中には「カッサシオン」のようにオーケストラをリードしなければいけない作品もありましたね。

ムン そのために自分のパート譜だけでなく、スコアを勉強しようと思い、取り寄せました。そして、他の楽器がどんな動きをしているのかをチェックして、私はどこでキュー(合図)を出せば良いのか楽譜に書き込んだりして、準備をしました。実際にリハーサルを仙台フィルの皆さんと始めたら、私が思っているところでちゃんと入ってきてくださって、一緒に音楽作りをするのが楽しかったです。

コンサートマスター課題に臨むムンさん

——少し昔のことに遡りますが、ヴァイオリンを始めたきっかけを教えてください。

ムン とにかく本を読むことが好きで、小さい頃は毎日、家の近くの本屋さんに行っていたのですが、そのお店のライブラリアンの方がある日、声をかけてくれたのです。「私の娘が使っていたヴァイオリンがあるのだけれど、やめてしまったので、その楽器を使ってみない?」と。それがヴァイオリンとの出会いで、そこから虜になりました。

——韓国の他、プラハなどでもヴァイオリンを習っていらしたようですね。

ムン 父の仕事の関係で家族と一緒にプラハに住むことになったので、そこでヴァイオリンを教えてくれる先生を捜しました。現在チェコ・フィルのゲストアーティストを務めているヨーゼフ・シュパチェクさんのことを知り、彼に直接メールを送って、指導をお願いしたら、引き受けてくださいました。おそらく彼にとって私が最初の弟子で、いまでも唯一の弟子だと思います。

※所定の定期公演や特別演奏会でコンサートマスターとして出演する

——その時期にザルツブルクでピエール・アモイヤル先生にも習っていたのですか?

ムン そうです。母が月に1〜2回、プラハからザルツブルクまで車を走らせてくれて、アモイヤル先生のレッスンを受けていました。だいたい片道4時間半ぐらいかかりましたが、それも楽しい思い出です。

——今回は、セミファイナルでドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲を、ファイナルではブルッフの「スコットランド幻想曲」を選択されましたね。

ムン ドヴォルザークの協奏曲は実はチェコに居た時に勉強していて、今回もプラハの街並みなどを脳裏に浮かべながら演奏しました。ブルッフを選んだのは、アモイヤル先生がハイフェッツのお弟子さんであったことに関係しています。ハイフェッツがこの作品を初めて録音して、世の中に知らしめたのです。ただ、彼は少しカットした版を使っていて、私もずっとそれで勉強していたのですが、このコンクールではオリジナルで演奏しなければならないことが分かり、慌ててそのカットされた部分をさらいました(笑)

ブルッフ「スコットランド幻想曲」では情感豊かな独奏を披露!

——現在はカーティス音楽院でアイダ・カヴァフィアン先生のもとで学ばれています。

ムン カーティスに入るのは私の夢でした。そして、今ではとても親しい友人であるHIMARIとも出会うことができました。同じくカヴァフィアン先生に習っていますが、彼女のほうが私より1年前に入学していました。カーティスではセメスター(学期)ごとに室内楽のグループを作って学ぶのですが、次のセメスターでは彼女と一緒に弦楽四重奏をやることになっています。チェリストは決まって、いまヴィオラを探しているところです。

——それは素晴らしいクァルテットになりそうですね。この冬に東京でソロのリサイタルがあると思うので、その時にまたお話を伺いたいです。ありがとうございました。

入賞者記念ガラコンサートより

取材・文:片桐卓也
写真提供:仙台国際音楽コンクール事務局


ムン・ボハ 今後の出演公演

新日本フィルハーモニー交響楽団
SMBC presents ”新しい風”スペシャル・コンサート~チャリティーコンサート~

2025.11/16(日)14:00 すみだトリフォニーホール

出演
ダレル・アン(指揮)
鈴木愛美(ピアノ)*
ムン・ボハ(ヴァイオリン)**

曲目
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.35**
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番 ハ短調 op. 37*

第9回仙台国際音楽コンクール ヴァイオリン部門 最高位受賞記念リサイタル
2025年冬 浜離宮朝日ホール

出演
ムン・ボハ

2025.9/2(火)発売