東京交響楽団が本拠地ミューザで100回目となる川崎定期演奏会を開催

「いつかお客さまに感謝の気持ちを伝えたかった」

終演後、来場者を見送る東響メンバー ©JUNICHIRO MATSUO/TSO

 6月7日、東京交響楽団が本拠地・ミューザ川崎シンフォニーホールで川崎定期演奏会第100回を開催した。

 指揮は、若くしてローマ歌劇場の音楽監督を務める俊英ミケーレ・マリオッティ。前回2023年時の好演を経て、東響には2回目の登場となる。プログラムは、前半にモーツァルトの交響曲第25番、後半には得意のロッシーニの声楽を伴う大曲「スターバト・マーテル」。合唱もソリストも見事な歌唱を披露し、東響もマエストロの緩急自在のタクトに高い集中力で応え、演奏が終わるやいなや盛大な拍手が送られた。

©JUNICHIRO MATSUO/TSO

 この日は、ミューザ川崎での記念すべき100回目の公演ということで、特別な企画が用意されていた。そのひとつは、この公演のために作られたポスター。ミューザの客席を背景にした写真に、これまで支えてくれたお客さまへの感謝の気持ちが綴られている。

ホール入り口に貼られたポスター

以下ポスターより抜粋

 2004年の川崎市とのフランチャイズ提携以来、震災、コロナ禍等未曾有の事態をも乗り越えミューザ川崎シンフォニーホールを拠点に、音楽を届け続けることができましたのはひとえに、これまで演奏会へご来場いただいたお客様、川崎市の皆様をはじめ携わっていただいたすべての方々のあたたかいご支援のおかげです。

 これからも心を動かす音楽を奏で続け、川崎市のフランチャイズオーケストラとして皆様とともに 地域に根ざした活動をより一層深めてまいります。

 そしてもうひとつは終演後の“お見送り”。演奏者たちはステージ衣装のままロビーに並び、ホールを後にする来場者一人ひとりに笑顔で「ありがとうございました」と語りかけていた。

 これらの企画は、東日本大震災やコロナ禍など、決して平坦ではない道のりを歩んできた東響メンバーからの発案によって行われた。そのひとり、オーボエ&イングリッシュホルン奏者の最上峰行さんは、かねてから「いつか感謝の気持ちを直接お客さまに伝えたい」と考えていたという。

「東日本大震災の時にはミューザが使えなくなり、僕たちは市内の会場を転々としながら演奏を続けました。でも、川崎の皆さんのサポートがあったからこそ乗り越えられたし、ミューザに戻ってこられた時には、本当に泣けました。

 正直、東京と名のつく団体がなぜ川崎のフランチャイズなの? と思われる方もいるかもしれませんが、僕たちはこの街を本当に大切に思っていて、大好きなんです。

 そしてこの素晴らしいホールをホームとして、大切にしていきたい。だからこそ、川崎の皆さんとのつながりをもっと深めたいと強く思っています」

最上峰行さん

 同じく発案者のひとり、ヴィオラ・フォアシュピーラーの多井千洋さんにもお見送りを終えた後、話を聞いた。

「おかげさまで、より近くでお客様の空気感を受けとることができました。飲食店でもそうですが、顔を合わせることで、少しずづ“馴染み”の存在になっていきますよね。今回のような活動を通して、私たちももっと身近に感じてもらえる存在になれたら嬉しいです。

 貴重な時間を共に過ごしてくれたお客さまに、直接感謝を伝えられることは、本当に意義深いと感じています」

多井千洋さん

 節目の第100回を経て、次なるステップへ――。東響と支えるファン、そして川崎の街との絆は、今後さらに深まっていきそうだ。

取材・文・写真:編集部


東京交響楽団
今後の演奏会の予定

名曲全集 第208回<前期>

2025.6/14(土)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール

指揮:ミケーレ・マリオッティ
ヴァイオリン:ティモシー・チューイ

チャイコフスキー:幻想的序曲「ロメオとジュリエット」、ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.35
プロコフィエフ:バレエ組曲 「ロメオとジュリエット」から
 モンターギュ家とキャピュレット家
 少女ジュリエット
 マドリガル
 メヌエット
 仮面
 ロメオとジュリエット
 タイボルトの死

東京オペラシティシリーズ 第145回
2025.6/21(土)14:00 東京オペラシティ コンサートホール

指揮&チェロ:マリオ・ブルネロ

ヴァインベルク:シンフォニエッタ第2番 op.74
ハイドン:交響曲第100番 ト長調 Hob.l:100「軍隊」
ヴァインベルク:チェロと弦楽のためのコンチェルティーノ op.43 bis
シューマン(ショスタコーヴィチ編):チェロ協奏曲 イ短調 op.129

問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511
https://tokyosymphony.jp