仙台国際音楽コンクールが間もなく開幕! 2001年、仙台市が開府400年を記念して創設し、以来3年ごとに行われている同コンクール。ヴァイオリンとピアノの2部門開催、協奏曲を課題曲の中心に据えるという特色を持ち、過去の入賞者には青木尚佳(第6回・第3位、ヴァイオリン)、ユジャ・ワン(第1回・第3位、ピアノ)や津田裕也(第3回・第1位、ピアノ)……と、国際的な活躍をみせる奏者が名を連ねています。第9回となる今年は、ヴァイオリン部門が5月24日から6月8日、ピアノ部門が6月14日から6月29日に開催。新緑まぶしい仙台の地でしのぎを削ります。この記事ではそれぞれの部門の注目ポイントを、音楽評論家の松本學さん、道下京子さんにご紹介いただきます。

(2022年・第8回開催時)
【開催終了】ヴァイオリン部門(5月24日~6月8日)
文:松本學
安定した運営とオリジナリティ豊かな課題曲、さらに開催期間中のホスピタリティや終了後の活動のケアなど、充実を誇る仙台国際音楽コンクール。そのヴァイオリン部門は、開催の度に存在感を増してきた。第9回となる今回も期待は大きい。

独自性をキープするとともに、毎回細かな変化も試行されている同コンクールの今回の特長やチェックポイントを挙げてみよう。
まずは課題曲。初めて予備審査からモーツァルトのコンチェルト(ピアノ伴奏)を取り入れ、続く予選も指揮なしによるモーツァルトの「アダージョ」と「ロンド」、およびイザイの無伴奏ソナタを合わせた。セミファイナルではメンデルスゾーンまたはドヴォルザークのコンチェルトをセレクト。どちらも聴きやすさでは定評のあるコンチェルトゆえ、コンテスタントの準備の量が露わになるラウンドとなるだろう。
また、堀米ゆず子委員長が第7回から導入したコンサートマスターとしての審査もある。課題となるのは、モーツァルトのカッサシオンおよびブラームスの第1交響曲第2楽章。コンチェルトも同様ではあるが、いかにスコアを隅々まで把握しているか、そしてその上で作品が求める音楽的表現と、オケとのアンサンブルを両立できるかが問われる。ソリストとコンマスの両方で説得力ある演奏を聴かせるのは容易いことではない。

今回、例年より先鋭化(?)したのは、4つのラウンドすべてにモーツァルトを義務付けたことだ。毎回コンクールの大きな鍵となるのがモーツァルト。中でもフレージングの語り口や美しさ、緩徐楽章での音楽の密度が結果を大きく左右するので、より集中してこの作曲家を学ぶ機会を提供しようという目論みだろう。
審査委員についても触れておこう。今回は常連陣や本コンクール出身(第1回優勝者)のホアン・モンラらと並び、新しく名伯楽のミハエラ・マルティンとソリストの米元響子、そして2024年までコンセルトヘボウ管のコンサートマスターだったリヴィウ・プルナルが参加している。さらにかつての東京フィルのコンマスでもあり、今や日本のピリオド界を牽引する寺神戸亮を加えて、作品へのアプローチに対する視点を拡大するなど、層の厚さを図っているのもポイントだ。

コンテスタントについては、ここのところのカーティス音楽院出身者の活躍もさることながら、これまで以上に韓国、中国勢の台頭が際立っているようだ。こればかりは時代の趨勢である。
第9回の出場者38名全員について触れる紙幅はないが、たとえば賞歴の点から見れば、ロン=ティボーとエネスクの2つで入賞しているヴィクラム・フランチェスコ・セドーナ(イタリア)をはじめ、パガニーニやイザイコンクールの入賞者もいる。その他にも、2019年の第7回で6位となったコー・ドンフィ(韓国)の再チャレンジも気になるところだ。日本勢もクライスラーコンクールで第2位に輝いた吉本梨乃や日本音楽コンクール第2位でクァルテットの活動も著しい落合真子、松木翔太郎と的場桃の2007年組、フィオーナ・キサラ・イヨク(アメリカ/日本)、シーバース・エマニュエル(日本/アメリカ)のダブル組にも注目したい。
出場者一覧(2025.5/15現在)

(姓のアルファベット順/年号は生年)
1. サミール・アグラワル Sameer AGRAWAL(アメリカ、2005年)
2. レオン・ブレック Leon BLEKH(オランダ、1999年)
3. ザカリー・ブランドン Zachary BRANDON(アメリカ、1998年)
4. ツァオ・ジャーチェン CAO Jiachen(中国、2006年)
5. エリック・チェン Eric CHEN(アメリカ/台湾、2001年)
7. ヴィルモシュ・チコシュ Vilmos CSIKOS(ベルギー/ハンガリー、1996年)
8. ダン・ファリ DANG Huali(中国、1995年)
9. ジナ・ケイコ・フリージケ Gina Keiko FRIESICKE(ドイツ、2002年)
10. ヤニス・グリソー Yanis GRISÓ(ルクセンブルク、2003年)
11. フィオーナ・キサラ・イヨク Fiona Kisara IYOKU(アメリカ/日本、2007年)
12. チン・イェヨン・ジェニー JIN Yeyeong Jenny(韓国、2003年)
13. ジュリア・ジョーンズ Julia JONES(アメリカ、2004年)
15. キム・ハラム KIM Haram(韓国、1998年)
16. キム・ヒョンジ KIM Hyeonji(韓国、2000年)
17. コー・ドンフィ KO Donghwi(韓国、1997年)
18. イ・ジユン LEE Jiyoon(韓国、1999年)
19. レイ・ハイルイ LEI Hairui(中国、2005年)
20. リ・ジンジュ LI Jinzhu(中国、2007年)
21. リュウ・ティェンヨウ LIU Tianyou(中国、2009年)
22. ズィー・ヤン・ロウ Zi Yang LOW(マレーシア、2004年)
23. 的場桃 MATOBA Momo(日本、2007年)
24. 松木翔太郎 MATSUKI Shotaro(日本、2007年)
25. リアン・マガウアン Leanne MCGOWAN(オーストラリア、2001年)
26. ムン・ボハ MOON Boha(韓国、2006年)
27. ミヒャエル・ノーデル Michael NODEL(ドイツ/アメリカ、2002年)
28. 落合真子 OCHIAI Mako(日本、2001年)
29. パク・ソヒョン PARK Seohyeon(韓国、2005年)
30. パク・ウォンミン PARK Wonmin(韓国、2004年)
32. ヴィクラム・フランチェスコ・セドーナ Vikram Francesco SEDONA(イタリア、2000年)
33. シン・ジェイク・ドンヨン SHIM Jake Dongyoung(韓国、2001年)
34. シーバース・エマニュエル SIEVERS Emmanuelle(日本/アメリカ、2002年)
35. ツァイ・エリック TSAI Eric(台湾/アメリカ、1997年)
36. ユリアン・ヴァルダー Julian WALDER(オーストリア、2000年)
37. ワン・ダンダン・ジンフェイ WANG Dandan Jingfei(中国、2005年)
38. ウー・シーユエ WU Xiyue(中国、1997年)
39. ユン・ヘウォン YOON Haewon(韓国、2005年)
40. 吉本梨乃 YOSHIMOTO Rino(日本、2003年)
41. ジャン・アオジュ ZHANG Aozhe(中国、2008年)
※6,14,31は出場辞退 2は出場辞退(5/25更新)
ピアノ部門(6月14日~6月29日)
文:道下京子
仙台国際音楽コンクールのピアノ部門は、世界に羽ばたく若き才能を数多く輩出している。近年では、第6回で第4位を受賞したブルース・リウが2021年のショパン国際ピアノコンクールで優勝。コロナ禍の影響を受けながらも無事開催された2022年・第8回は、非常にハイ・レベルの争いとなった。入賞者の躍進は著しい。ジョージ・ハリオノはチャイコフスキー第2位(2023)、ジョンファン・キムはシドニー優勝(2023)、またヨナス・アウミラーは直近では浜松第2位(2024、同コンクールでの実績により予選免除で10月のショパンに出場予定)など、著名な国際コンクールの上位入賞を次々と果たしている。

同コンクールの課題曲の特徴のひとつは、モーツァルトの協奏曲だ。セミファイナルでは第15番~第19番から1曲、ファイナルにおいては第20番~第22番、第24番、第25番、第27番から1曲をオーケストラと共演。さらに、ファイナルではモーツァルトに加え、指定された作曲家の協奏曲も1曲演奏する。特に、セミファイナルの5曲は演奏される機会があまり多くない。ヴィルトゥオーゾとしての華やかな能力だけではなく、アンサンブル的にしっかりと作品を捉える構築性や古典的な作品への造詣が求められていると言える。
また、審査委員長は、ピアノの名手としても知られる作曲家の野平一郎。そして副審査委員長は、ショパンやロン=ティボーなど多くの国際コンクールで審査委員を務める海老彰子と、エレーヌ・グリモーやダヴィッド・フレイら優れた弟子を多く育て上げるフランスの名ピアニスト、ジャック・ルヴィエ。さらに、レナ・シェレシェフスカヤやダン・タイ・ソンといった優れた教育者たちが審査委員を務める。

今大会では、ヨーロッパからも数多くのエントリーがあった。予選の出場者のなかには、5月下旬から6月上旬にかけて開催されるヴァン・クライバーン(ツァイ・ヤンルイ、エリア・チェチーノ)、そして10月のショパン国際ピアノコンクール(ウ・チュンラム)といった難関の国際コンクールへの出場者も数多く含まれている。そのため、前回以上の熾烈な争いが予想される。

日本勢は9名が出場。2023年東京音楽コンクール優勝者の佐川和冴や、先日のショパンコンクール予備予選で通過ならずとも健闘をみせた辻本莉果子といった実力派ピアニストも出場。さらに、全日本学生音楽コンクール中学生の部で第1位を受賞し(2016)、現在ウィーン国立音楽大学に学ぶ岸本隆之介、宝塚ベガコンクール優勝者(2024)の森永冬香や、カントゥ・ピアノとオーケストラのための国際コンクール第2位(2023)の木本秀太、エットーレ・ポッツォーリ国際コンクールで最高位を獲得した(2023)島多瑠音……と、国内外で実績を残すメンバーが名を連ねている。
20歳前後の出場者も要チェック!昨年のエトリンゲン国際第3位の小野寺拓真。前回の仙台ではセミファイナルまで駒を進め、なめらかな質感の音で生き生きと音楽を作り出したモーツァルトは感動的だった。そして、昨年のピティナ・ピアノコンペティション特級で第4位の大山桃暖。その豊かな表情と躍動感あふれる演奏が印象に残っている。出場者のなかで最年少の天野薫は、昨年のピティナPre特級部門で銅賞を受賞するなど、話題の小学6年生。伸びやかな情感と演奏の完成度の高さは注目。
出場者一覧(2025.5/15現在)

(姓のアルファベット順/年号は生年)
1. 天野薫 AMANO Kaoru(日本、2013年)
2. ペ・ジヌ BAE Jinwoo(韓国、2001年)
3. クラウディオ・ベッラ Claudio BERRA(イタリア、1997年)
4. ツァイ・ヤンルイ CAI Yangrui(中国、2000年)
5. エリア・チェチーノ Elia CECINO(イタリア、2001年)
6. デイヴィッド・チョエ David CHOI(アメリカ/韓国、2007年)
7. チェ・イサク CHOI Isak(韓国、2004年)
8. ド・ヨンス DO Yeonsoo(韓国、2002年)
9. ファン・ジェンヤン FAN Zhengyang(中国、2004年)
10. ユリアン・ガスト Julian GAST(ドイツ、1999年)
11. グオ・ユンユン GUO Yungyung(中国、2003年)
12. ジョシュア・ハン Joshua HAN(オーストラリア、2002年)
13. ロベルト・ルメノフ Roberto RUMENOV(ブルガリア、2000年)
14. キム・ドンジュ KIM Dongju(韓国、2004年)
15. キム・ジヨン KIM Jiyoung(韓国、1996年)
17. キム・ヨンヒ KIM Yonghee(韓国、2003年)
18. 木本秀太 KIMOTO Shuta(日本、1995年)
19. 岸本隆之介 KISHIMOTO Ryunosuke(日本、2002年)
20. アレクサンドル・クリチコ Aleksandr KLIUCHKO(ロシア、2000年)
21. ラファエル・キリチェンコ Rafael KYRYCHENKO(ポルトガル/ウクライナ、1996年)
22. ラウ・シンホ LAU Shing Ho(香港、1998年)
23. イ・セボン LEE Saebeom(韓国、1996年)
24. イ・テッキ LEE Taekgi(韓国、1996年)
26. リン・ジエ LIN Zhiye(中国、1996年)
27. ルゥォ・ジエ LUO Jie(中国、2001年)
28. 森永冬香 MORINAGA Fuyuka(日本、2002年)
29. ヤン・ニコヴィッチ Jan NIKOVICH(クロアチア、2001年)
30. 小野寺拓真 ONODERA Takuma(日本、2005年)
31. 大山桃暖 OYAMA Modan(日本、2005年)
32. ジェイコブ・ロックアワー Jacob ROCKOWER(アメリカ/日本、2008年)
33. リュ・ジュンヒョン RYU Joonhyun(韓国、2001年)
34. 佐川和冴 SAGAWA Kazusa(日本、1998年)
36. 島多璃音 SHIMATA Riito(日本、2001年)
38. シン・ヨンホ SHIN Youngho(韓国、2007年)
40. 辻本莉果子 TSUJIMOTO Rikako(日本、1998年)
41. ウ・チュンラム U Chun Lam(香港、2002年)
42. エリザヴェータ・ウクラインスカヤ Elizaveta UKRAINSKAIA(ロシア、1996年)
43. 王徳稔 WANG Deren(中国、1997年)
44. チャン・ジーチャオ ZHANG Zhiqiao(中国、1998年)
※16,25,35,37,39は出場辞退 5,7,8,11,15,32は出場辞退(6/13更新)
ライブ配信も行われる第9回仙台国際音楽コンクール。現地だけでなく、自宅からでもコンテスタントの演奏を聴くことができます。才気あふれる若き音楽家たちが杜の都を熱くする1ヵ月、お見逃しなく!
【Information】
第9回仙台国際音楽コンクール
2025.5/24(土)~6/29(日)
会場:日立システムズホール仙台(仙台市青年文化センター)
ヴァイオリン部門
〇スケジュール
♪予選
5/24(土)・5/25(日)各日12:30~、5/26(月)10:30~
内容:独奏&オーケストラと共演(指揮者なし)
♪セミファイナル
5/30(金)18:00~、5/31(土)・6/1(日)各日14:00~
内容:オーケストラと共演(協奏曲+管弦楽曲の指定箇所をコンサートマスターとして演奏)
出場人数:12名
♪ファイナル
6/5(木)・6/6(金)各日18:00~、6/7(土)15:00~
内容:オーケストラと共演(協奏曲2曲)
出場人数:6名
♪入賞者記念ガラコンサート
6/8(日)14:00~
上位3名がオーケストラと共演
〇審査委員
堀米ゆず子(日本・委員長)、堀正文(日本・副委員長)、ヤンウク・キム(アメリカ・副委員長)、シュムエル・アシュケナージ(アメリカ)、ボリス・ベルキン(ベルギー)、ホアン・モンラ(中国)、チョーリャン・リン(アメリカ)、ミハエラ・マルティン(ドイツ)、リヴィウ・プルナル(ルーマニア/ベルギー)、寺神戸亮(日本)、米元響子(日本)
〇共演
広上淳一(指揮) 仙台フィルハーモニー管弦楽団
※予選のみ仙台フィルハーモニー管弦楽団および山形交響楽団(指揮者なし)
ピアノ部門
〇スケジュール
♪予選
6/14(土)・6/15(日)・6/16(月)各日10:00~
内容:独奏
♪セミファイナル
6/20(金)18:00~、6/21(土)・6/22(日)各日14:00~
内容:オーケストラと共演(協奏曲)
出場人数:12名
♪ファイナル
6/26(木)・6/27(金)各日18:00~、6/28(土)15:00~
内容:オーケストラと共演(協奏曲2曲)
出場人数:6名
♪入賞者記念ガラコンサート
6/29(日)14:00~
上位3名がオーケストラと共演
〇審査委員
野平一郎(日本・委員長)、海老彰子(日本・副委員長)、ジャック・ルヴィエ(フランス・副委員長)、ジュゼップ・コロン(スペイン)、ダン・タイ・ソン(カナダ/ヴェトナム)、ケヴィン・ケナー(アメリカ)、ヴァディム・ホロデンコ(ウクライナ)、キム・デジン(韓国)、マティアス・キルシュネライト(ドイツ)、練木繁夫(日本)、レナ・シェレシェフスカヤ(ロシア/フランス)
〇共演(セミファイナル~入賞者記念ガラコンサート)
高関健(指揮) 仙台フィルハーモニー管弦楽団