日本と西洋の古典芸能が呼応する意欲的な公演「能とバロック~フォリア:狂気と祈り」が、1月24日に宝生能楽堂(東京・文京区)で開催される。能楽師・梅若紀彰と、チェンバロ&ヒストリカルハープの二刀流で知られる西山まりえ、ヴァイオリニストの﨑谷直人が共演し、バッハやタルティーニ、コレッリらの名曲でコラボレーションを行う。12月、都内で行われた公演に関する記者会見に梅若紀彰が出席し、協働に向けた意気込みを語った。

謡本などの出版を手掛ける能楽書林が展開する「書林アカデミー」と、一般社団法人 伝統文化交流協会の共同プロジェクトにおける新シリーズ「継 ―つなぐ―」の第一回として企画された今回の公演。同シリーズでは能楽と、音楽・美術・思想などの異分野との対話を通じて、伝統芸能の表現の可能性を探ることを目的としている。トップバッターを務めることになった梅若紀彰は、シテ方観世流の名家・梅若家に故・五十五世梅若六郎の孫として生まれ、能楽師として活躍。今年4月には令和6年度日本芸術院賞を受賞している。ジャンルを超えた新作にも積極的に取り組んでおり、これまで坂本龍一や、久石譲の娘で歌手の麻衣などとも協働を行っている。
「様々なコラボをこれまで行ってきた中で、クラシック音楽で初めて舞ったのが実はバッハの作品でした。僕にとっては相性の良い作曲家だと感じていて、とりわけ『シャコンヌ』は5、6回は舞っているはずです。能にも通じる、“人間の営みと神との交流”のようなイメージを抱きます。『悪魔のトリル』も以前、舞う機会があり、この作品の“タルティーニが、夢の中で出会った悪魔が弾いていた美しい音楽を書き留めた”という逸話から着想を得た演出を組み上げていきました」

紀彰のこうした経験をもとに、クラシックとのコラボレーションの構想が練られる中で、かつて王子ホールでの「悪魔のトリル」の演奏で好評を博した西山と﨑谷が浮かび上がり、共演が決定した。プログラムの後半では西山サイドからの提案により、彼女が得意とするフランス・バロック後期の作品群(チェンバロソロ)、そしてコレッリ「ラ・フォリア」が配されている。イタリア語で“狂気”を意味する熱狂的な舞曲を起源としながら、17世紀以降は徐々にテンポが落ち着き、一定の低音進行の上に変奏を重ねる様式として確立されていったフォリア。その名にふさわしい激情とともに内省的な性格も併せ持った音楽的主題として、数多くの作曲家を魅了してきたが、その中でも名作の誉れ高いコレッリ作品を縦糸に、「狂気と祈り」と題された公演が織り上げられた。
「チェンバロとの共演は初めてで、たくさんの作品をご提案いただいて悩みに悩んだのですが…… 先の2曲と比べてより激しい場面がある方がいいかと考え、最終的に“これなら舞える!”と思って選んだのが『ラ・フォリア』でした。公演の最後で三人一緒になるということで、この曲に関しては面と装束付きでやる予定です。ただ、改めて聴き直して、どうやって仕上げていくかは目下思案中で……(笑) 本番をお楽しみにしてください!」

右:﨑谷直人
能とバロック音楽、一見異色の組み合わせに見えるが、「僕にとって能というのは“日本の古典”ではなく、子どものころからごく身近にあったものでした。ですので、囃子がヴァイオリンでも、パイプオルガンでも、あるいは現代音楽の歌になったとしても、同じような感覚で舞えるんです」と語る紀彰。東洋と西洋、身体表現と音楽……先入観にとらわれないコラボレーションがどのような実を結ぶのか、注目したい。
文・撮影:編集部
写真提供:ムジカキアラ
継 ―つなぐ― vol.1
「能とバロック~フォリア:狂気と祈り」
2026.1/24(土)14:00 宝生能楽堂
♪出演
梅若紀彰(シテ方観世流能楽師)★
西山まりえ(チェンバロ、バロックハープ)
﨑谷直人(ヴァイオリン)
♪曲目(★は梅若紀彰とのコラボ)
J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番 BWV1004より第5楽章「シャコンヌ」(Vn solo)★
トラバーチ編/アルカデルト原曲:ハーブのための「どうぞ私の命を断って」(Hp solo)
タルティーニ:ヴァイオリン・ソナタ ト短調「悪魔のトリル」(Vn&Cemb)★
バルバトル:ラ・ド・カーズ(Cemb solo)
デュフリ:三美神(Cemb solo)
ロワイエ:スキタイ人の行進(Cemb Solo)
コレッリ:ソナタ ニ短調「ラ・フォリア」op.5-12(Vn&Cemb)★
問:ムジカキアラ03-6431-8186
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