沼尻竜典のタクトのもと首都圏音大8校の若き情熱が花開く

左:沼尻竜典/井上悠里/大田智美 ©Jumpei Tainaka

 昨年10月21日、プロ野球の“本家”ドラフト会議にさきがけて、「音楽大学フェスティバル・オーケストラ」のドラフト会議が開かれた。恒例の音大8校の選抜オーケストラ。その管打楽器パートの演奏権を確保し合う会議の通称だ。抽選で選択順を決め、「オーボエ1番もらいます!」「じゃあうちはフルートから」⋯⋯。非公開だが、なんだかちょっと楽しそう。

 今回の指揮は沼尻竜典。まず、没後50年のショスタコーヴィチの巨大な交響曲第4番を選んだ。挑戦的作風が共産党当局の不興を買い、初演を見送った逸話もある。「そんな野心的なところが、学生たちの若い感性にぴったり」と沼尻。

 プログラム前半は武満徹の「系図」。少女の語る谷川俊太郎の詩に、オーケストラの美しい武満サウンドが呼応する。オーディションで選ばれた朗読は、東京音大付属高校で声楽を学ぶ2年生の井上悠里さん。「おとうさんずうっといきていて」と発する言葉に、世のお父さん方は号泣注意。図らずも谷川俊太郎追悼となってしまった。合掌。

 沼尻は、「他校のいろいろなスタイルを知ることができるのも合同オケの良いところ」と話す。プロになれば、演奏はもちろん作法の面でも楽団によってさまざま。それを疑似体験して引き出しを増やせる。

 演奏だけでなく、公演制作も学生たち。現場でプロのスタッフに学びながら運営してゆく。若さが結集する眩しいコンサートだ。準備の様子は公式X「@ondaifes」で。
文:宮本 明
(ぶらあぼ2025年3月号より)

東京芸術劇場&ミューザ川崎シンフォニーホール共同企画
第14回音楽大学フェスティバル・オーケストラ
2025.3/29 (土)15:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
問:ミューザ川崎シンフォニーホール044-520-0200 
https://www.kawasaki-sym-hall.jp