尊敬するピアニストと奏でる“隠れた名曲”
ソロや室内楽等を国内外で意欲的に行い、「コバケンとその仲間たちオーケストラ」のコンサートミストレスも務めるヴァイオリンの瀬﨑明日香。彼女はこの10月、Hakuju Hallの「リクライニング・コンサート」で、ロシア出身の名ピアニスト、イリーナ・メジューエワとのデュオ・リサイタルを行う。
当ホールには意外にも初出演。そのタイミングで絶好のパートナーと巡り合った。
「ソロのお話をいただいた時に偶然、音楽に対する誠実さに共感し尊敬の念を抱いていたメジューエワさんを紹介されたので、共演をお願いしました。彼女は作品の内側にあるものを大切にする演奏家だと思うので、私もそうした表現を目指したいですね」
それゆえプログラムはすべてロシアもの。しかも演奏機会の少ない作品が中心だ。
「メジューエワさんはメトネルを中心に埋もれた作品の紹介に尽力されていますし、私も隠れた作品を掘り下げていきたいと考えていました。ロシアには西洋とは趣の異なる優しさや日本と近しい部分を持った作品が多々ありますので、同世代のメジューエワさんと同志のような気持ちでレパートリーを深めていけたら、そして日本で知られていないロシアの作品を紹介できればとの思いでプログラムを組みました」
ロシア5人組の中でも隠れがちなキュイの2曲で始まる構成は実に興味深い。
「キュイのソナタと『オリエンタル』は美しく聴きやすい作品。父がフランス人のキュイの曲にはそうしたテイストが含まれていますので、今フランスのレアな作品に挑戦している私は親しみやすさを感じます。次の『シェエラザード』第3楽章は珍しいクライスラー編。クライスラーお馴染みの小品とは違った奥行きのある世界を持っています。ここはそんな一面を知ってもらいたいなと。グラズノフの『瞑想曲』はメロディが綺麗で聴き応えがあり、今回最も有名なラフマニノフの『ヴォカリーズ』は人声と楽器の魅力をともに表現したい。そしてメトネルのソナタ第1番。メトネルは“ロシアのブラームス”と呼ばれるだけあって、構成感がある中に独自の魅力が隠れています。私もちょうど演奏したいと思っていたところにメジューエワさんとの出会いがあったので、ぜひ入れようと思いました」
この選曲には「リクライニング」も意識されている。
「公演の主旨はリラックスしていただくことですので、大曲ではなく、耳馴染みの良い作品を選び、新しい本との出会いのような喜びを感じてもらえればと考えました」
「音に包まれる感じの」Hakuju Hallで、「聴衆と自然に共有できるようなコンサートを」と語る彼女。初共演にも注目しつつ、“知られざる名曲と出会う喜び”を享受したい。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2024年8月号より)
第173回 リクライニング・コンサート
瀬﨑明日香(ヴァイオリン) & イリーナ・メジューエワ(ピアノ)
2024.10/11(金)15:00 19:30 Hakuju Hall
問:Hakuju Hall チケットセンター03-5478-8700
https://hakujuhall.jp