新シーズン幕開けは俊英たちと描く楽聖の軌跡
トッパンホールが毎年、開館記念日の10月1日に開催してきた「バースデーコンサート」が、今年から「シーズン オープニングコンサート」と名を変え、新たなスタートを切る。第1回はベートーヴェンに焦点をしぼり、日本の俊英アーティスト5人が、この偉大な作曲家のさまざまな顔に光を当てていく。
開幕は、笹沼樹と兼重稔宏によるチェロ・ソナタ第4番。トッパンホールのプログラミング・ディレクターの西巻正史が、ショッキングな出来事に日本がみまわれた今年元日の夜に手にとったのは、この曲の楽譜だったという。闇を呪いたくなるあの夜に、心を照らし、灯をともすような音楽。他者を信じることを希求し、思索を続けたベートーヴェンこそ、そのような音楽の作り手だった。
続いて山根一仁と大井駿による、若き日の意欲的なヴァイオリン・ソナタ第1番と第2番。トッパンホールと縁の深い出演者の中で、ただ一人初登場となる大井がフォルテピアノを弾くのも興味深い。新シーズンのトッパンホールにはシュタイアーやベザイデンホウトなど、優れたフォルテピアノ奏者たちが登場するから、その予告篇でもある。
後半は、華やかなスター性をもった大西宇宙が兼重のピアノで歌う〈アデライーデ〉と〈遥かなる恋人に寄す〉に始まり、最後は再び笹沼と兼重のデュオによるチェロ・ソナタ第3番。この雄渾な音楽は、きっと行く手を照らしてくれることだろう。
ベートーヴェンと、明日への一歩を。
文:山崎浩太郎
(ぶらあぼ2024年8月号より)
2024.10/7(月)19:00 トッパンホール
問:トッパンホールチケットセンター03-5840-2222
https://www.toppanhall.com