大友 肇(チェロ)&クァルテット・エクセルシオのメンバーに聞く

 大友肇というチェリストの名前は、常に「クァルテット・エクセルシオ」という弦楽四重奏団と共にある(と言ってもいいだろう)。室内楽奏者としての人生を歩み、現在は音楽活動全体の90%以上を、エクセルシオのメンバーとして過ごすという。それゆえ東京・春・音楽祭で聴けるソロ(無伴奏)およびピアノとのデュオは貴重だ。
 2014年度の「齋藤秀雄メモリアル基金賞」を個人として受賞し、さらには結成20周年を迎えたエクセルシオが同年の「ホテルオークラ音楽賞」を受賞。ますます注目が集まる中でのコンサートだが、前半は大友のリサイタル、後半はエクセルシオの演奏というのが面白い。その構成さえも、おそらく“大友肇らしさ”なのだろう。
 今回は、大友に加え、クァルテット・エクセルシオのメンバー3人にも話をきいた。
(取材・文:オヤマダアツシ 撮影:M.Terashi/TokyoMDE)

—— 室内楽に目覚めたのはいつ頃でしたか。

大友:桐朋学園の附属高校(音楽科)で、2年目くらいから室内楽の授業がありました。当時はチェロをやっている人数が少なかったため、複数のグループから誘われました。いろいろな人と組みますし、編成や曲もさまざまでしたので、結果的にはいい勉強になりましたね。自分は室内楽が好きなんだと意識しはじめたのは、その頃だったかもしれません。その後、桐朋学園大学の研究科時代に出会ったメンバーでクァルテットを組み、20年も活動を続けてこられましたから(第2ヴァイオリンのみ、2004年に山田百子へ交代)、まさに夢のような状況です。

大友肇
大友肇

—— 今回のコンサートですが、前半はJ.S.バッハの「無伴奏チェロ組曲第1番」、そしてベートーヴェンの「『見よ、勇者は帰る』変奏曲」とラフマニノフのソナタから第1楽章が演奏されます。

大友:自分では室内楽奏者だという意識が強いせいか、今回の選曲もチェロが完全な主役となって超絶技巧を披露するようなものではなく、ベートーヴェンもラフマニノフもピアノとのデュオとして楽しめる曲だと思います。J.S.バッハの「組曲第1番」は完全に一人ですけれど、室内楽奏者がこの曲を弾くとこうなるのか! と思っていただければうれしいですね。

—— 後半はエクセルシオが演奏するシューベルトの「死と乙女」です。ベートーヴェンの弦楽四重奏曲を主要なレパートリーに入れていますので、彼に憧れ続けたシューベルトにも期待が高まります。

大友:ベートーヴェンとシューベルトの関係は兄と弟みたいなものかもしれません。シューベルトはむしろモーツァルトの遺伝子を受け継いでいるようなところがあり、メロディと色彩で音楽を作り上げる世界。ベートーヴェンはハイドンと音楽的には親子関係にあって、こちらはハーモニーやダイナミックスが演奏を構築する上でのポイントとなります。

西野ゆか
西野ゆか
西野ゆか(第1ヴァイオリン):ベートーヴェンは緊張感の塊みたいな音楽ですから、演奏している間は一瞬たりとも気が抜けません。シューベルトの「死と乙女」も壮大な世界ですけれど、そうした中でも“歌う”ことが一番大切なんです。
 

 

 

 

山田百子
山田百子
山田百子(第2ヴァイオリン):ベートーヴェンは定期演奏会で弾くことも多く、ここ数年は大晦日に東京文化会館で何曲かをまとめて演奏しますので、イメージ的にも自分たちにとっても特別な存在になっているかもしれません。
 

 

 

 

 

吉田有紀子
吉田有紀子
吉田有紀子(ヴィオラ):でもシューベルトは「死と乙女」や「ロザムンデ」など有名な作品しか弾いていませんから、エクセルシオとしての演奏を固めていくのはまだまだこれからですね。
 

 

 

 

—— クァルテット・エクセルシオは結成20周年を迎えましたが、ますます多彩な活動に期待が高まります。

大友:最初の10年間は修業のような時代でしたが、応援してくれる方も増えましたし、お客さんとの信頼感が生まれてきたなと感じています。それがあるからプログラムなどで冒険ができるのも事実。幸いなことに弦楽四重奏の作品はたくさんありますので、ベートーヴェンを軸にしながらもレパートリーを増やしていきたいと思っています。

吉田:私たちと客席の間にあった壁がなくなってきて、同じ空間を共有していると思えるようになりました。ベートーヴェンに関しても、弾くだけで体力や精神力を消耗する状態からは脱しましたから、少し余裕ができただけ新しいことを試していけると思います。

西野:「こうじゃなきゃいけない」ではなく「こういう方向はどうだろう」と思え、それをみんなで話し合えるようになったことも、大きな進歩だと言えるでしょうね。

山田:どうしてもまだ、弦楽四重奏は難しいとか雰囲気が堅いというイメージを持たれている方も多いですから、それを払拭していきたいです。

大友:お客様も一緒に音楽を作っていくのが室内楽の魅力なんだということを、もっと僕たちがアピールしたいですね。

 

 

チェリスト 大友 肇 ソロと室内楽の夕べ
〜齋藤秀雄メモリアル基金賞 受賞者支援コンサート

4.1 [水] 19:00 上野学園 石橋メモリアルホール

■出演
チェロ:大友 肇
クアルテット・エクセルシオ
 ヴァイオリン:西野ゆか、山田百子
 ヴィオラ:吉田有紀子
 チェロ:大友 肇
ピアノ:野本哲雄

■曲目
ベートーヴェン:
ヘンデル《ユダ・マカベウス》の「見よ勇者は帰る」の主題による12の変奏曲
ト長調 WoO.45
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長調 BWV1007
ラフマニノフ:チェロ・ソナタ ト短調 op.19 より 第1楽章
シューベルト:弦楽四重奏曲 第14番 ニ短調 D.810 《死と乙女》

S:¥3,600 A:¥2,600 U-25:¥1,500

チケット詳細: http://www.tokyo-harusai.com/program/page_2427.html