大西宇宙、前田妃奈が第25回 ホテルオークラ音楽賞を受賞

 ホテルオークラ音楽賞の第25回受賞者が発表され、2023年度の受賞者に大西宇宙(バリトン)と前田妃奈(ヴァイオリン)が選出された。同賞は、株式会社ホテルオークラ東京が1996年に創設したもので、活躍目覚ましい若手の音楽家の支援・育成を目的としている。二人には奨励金として各100万円と、副賞としてホテルのペア宿泊券などが贈られる。

大西宇宙 ©Marco Borggreve

 大西宇宙は1985年東京都生まれ。武蔵野音楽大学大学院、およびジュリアード音楽院を修了後、シカゴ・リリック・オペラで研鑽を積み、アメリカでデビュー。2019年にセイジ・オザワ松本フェスティバルの《エフゲニー・オネーギン》タイトルロールで日本オペラデビューを果たし、話題を集めた。これまでに、五島記念文化賞オペラ新人賞、日本製鉄音楽賞フレッシュアーティスト賞を受賞。2022年には、鍵盤のレジェンド、小林道夫と1st アルバム『シューマン:詩人の恋』(BRAVO RECORDS)をリリースしている。オペラの分野だけでなく、オーケストラ公演のソリストとしても幅広く活躍していることが評価された。

前田妃奈 ©Taira Tairadate

 最も注目を集める若手ヴァイオリニストの一人、前田妃奈は2002年大阪府生まれ。わずか11歳で関西フィルの公演ソリストデビューするなど、早熟の才を発揮。国内の主要音楽コンクールで上位入賞したのち、2022年には第16回ヴィエニャフスキ国際ヴァイオリンコンクール(ポーランド)を制した。大阪フィル、東響、日本フィル、新日本フィル、読響、都響など国内の主要オーケストラとの共演も多数。2023年には、イギリスの大手音楽事務所アスコナス・ホルトによる Lies Askonas Fellow に選ばれ、およそ20ヵ国で演奏するなど、今後、海外での活躍も期待されている。現在、東京音楽大学に特別特待奨学生として在学中。

 授賞式と記念演奏会は3月27日、同ホテル内で行われる。

選評:寺西基之(音楽評論家)

大西宇宙
大西宇宙さんはすでにアメリカを中心に国際的に活躍してきたことからも窺い知れるように、世界に通用する実力を持ったバリトン歌手で、近年は日本の音楽界においてもめざましい活動を展開している。特にオペラのジャンルではいくつもの作品でタイトルロールや重要な役を受け持って、張りのある美しい声と幅の広い表現力、的確な役作りと演技力でもって圧倒的な存在感を示し、今の日本のオペラ界になくてはならない人となってきた。新しい役柄に次々とチャレンジし、いずれもすばらしい成果を上げてきたことは、まさに彼の並外れた実力の証しといえるだろう。そうした数々のオペラ出演の合間にも、ソロ・リサイタルやジョイント演奏会を行ない、また様々なオーケストラの公演のソリストとしても引く手あまたであるなど、その多彩な活動ぶりには目を見張るものがある。今後国際的なバリトン歌手としてのいっそうの活躍をめざしていってほしい大器である。

前田妃奈
前田妃奈さんは10代から国内の主要ないくつものコンクールで輝かしい成績を収めて頭角を現わし、20歳の時の2022年、ポーランドで開催されたヘンリク・ヴィエニャフスキ国際ヴァイオリン・コンクールにおいて見事に優勝の栄冠を獲得して、今や日本の若手ヴァイオリニストの中で最も注目すべき存在となっている。テクニック面での抜きんでた技量はもちろんのこと、スケールの大きさと柔軟な細やかさを併せ持つ彼女の音楽作りは非常に表情豊かであるとともに個性的・創造的で、自分なりの表現を追求しようという意思が伝わってくる。しかしそれが決してひとりよがりにならず、彼女が奏でる音楽は作品に対する深い共感に裏付けられた自然な息遣いを感じさせる。作品の世界へと聴く者を引きこんでいくような包容力のある演奏に彼女の大物ぶりが窺える。これからもそうした芸風をいっそう深め、自身の優れた資質をさらに大きく花開かせていくことを期待したい。

The Okura Tokyo
https://theokuratokyo.jp/letter/news/mecenat-music-2024-3/