下野竜也(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団

二つの「第3番・ニ調」で垣間見る大作曲家の素顔

下野竜也 ©広島交響楽団

 これまで日本フィルとは、好んで「マニア向け」の演目を組んできた下野竜也。だから4月の東京定期は、いっけん常識的にみえるだろう。シューベルトとブルックナーの交響曲がそれぞれ1作ずつ並ぶ。後者が生誕200年を迎えるとあれば、なおのこと「常識的」だ。

 しかし、である。ブルックナーからは、この作曲家を得意とする下野にして初の第3番が選ばれている。これは一つの挑戦だろう。しかも、演奏頻度の高い第3稿ではなく、また近年注目の集まる第1稿でもなく、第2稿(ノヴァーク校訂版)を取り上げる。「これが本人の意志で書いた最後の稿だからです」とは下野の弁。なるほど、第3稿は、弟子筋の意見が相当に加わった稿だ。下野は、ブルックナーによる下げ弓の連続指定も、原則的に守るという。「ウィーンのムジークフェライン・ザールで聴くと、それがオルガンのように聞こえるのですよ」。ただしブルックナーを宗教的な領域にだけ押し込めるのは禁物だという。聖と俗の同居。そこをこそ、下野は愛してやまない。

 そしてシューベルトからは、これも珍しい交響曲第3番をチョイス。作曲家18歳のときの初期作品だ。3番並びであり、またブルックナーはニ短調でこちらはニ長調だから、駄洒落のようでもあるが、「ニ調」に下野は、「厳かなもの/祝祭的なもの」を感じ関連性をみるという。「未完成交響曲とはまた違う『やんちゃ』なシューベルトを楽しんでいただけると思います」。行かずばなるまい。
文:舩木篤也
(ぶらあぼ2024年4月号より)

第759回 東京定期演奏会 
2024.4/12(金)19:00、4/13(土)14:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 
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