さまざまな編成で楽しむ充実の10周年ラインナップ
出演者によるトークを交え、大ホールで贅沢な室内楽に浸るひとときを提供してきた文京シビックホールの「夜クラシック」が10周年を迎える。2024-2025シーズンにはこの大きな節目を記念するのにふさわしい4つの豪華公演が並ぶ。
Vol.33には4人の若きチェリスト、横坂源、上野通明、水野優也、柴田花音が登場。ジュネーヴ国際音楽コンクールや日本音楽コンクールといった国内外のコンクールでの優勝経歴を持つ期待の俊英たちだ。バッハの無伴奏ヴァイオリン用作品である「シャコンヌ」はじめ、ガーシュウィン、ピアソラ、デューク・エリントンらの多彩な音楽がチェロ四重奏で披露される。ここでしか聴けない特別なアレンジを通じて、チェロの幅広い表現力を再認識させられる一夜となるだろう。
日本を代表するオーケストラの一つである東京フィルハーモニー交響楽団は人員の豊かさという点でも抜きん出ており、充実したコントラバス・セクションを擁する。Vol.34では片岡夢児、黒木岩寿ら同楽団のコントラバス奏者による十重奏でホルストの組曲「惑星」より〈木星〉、そのほか、19世紀の技巧派コントラバス奏者として名を残しているボッテジーニの「パッショーネ・アモローザ」などが披露される。気心の知れたメンバーによる柔らかい低音の響きにメゾソプラノの中島郁子が共演者として華を添える。
ピアノが現代の形となる以前の姿を伝えるフォルテピアノ。その奏法の研究も進み演奏者も増えてきたが、モダン・ピアノ奏者として揺るぎない地位を確立してなお、フォルテピアノに関心を持ち研鑽を積んできた仲道郁代がVol.35に登場。二つの楽器を弾き分けるという好企画だ。使用されるのはヤマハのコンサート・グランドと、ショパンが好んだプレイエルのフォルテピアノ(1842年製)。「英雄ポロネーズ」ほかの名曲が書かれた真意が仲道の演奏と解説で解き明かされる。
Vol.36の出演者は来年デビュー50周年を迎える大谷康子と日独を拠点として演奏活動を繰り広げる福間洸太朗。本公演がユニークなのはベートーヴェンやエルガーらの有名曲だけでなく、〈“夏目漱石と月”に寄せて〉と題し、官費による音楽留学生第一号となり帰国後に滝廉太郎らを育てた幸田延、第二次世界大戦勃発直前のヨーロッパで華々しく活躍しながら28歳の若さで没した貴志康一、そして山田耕筰といった近代日本の作曲家の作品も取り上げている点だ。美しい音と知的なトークで客席を楽しませてくれるに違いない。
「夜クラシック」はドビュッシーの「月の光」をテーマ曲に掲げる。各公演を通して鑑賞し、毎回共通して演奏されるこの曲の多面的な魅力を聴き比べ味わってみるのも一興だ。
文:近松博郎
(ぶらあぼ2024年3月号より)
【Vol.33】 2024.8/23(金)
【Vol.34】 2024.11/22(金)
【Vol.35】 2025.1/17(金)
【Vol.36】 2025.3/28(金)
各日19:00 文京シビックホール
問:シビックチケット03-5803-1111
https://www.b-academy.jp/hall/
※シーズンセット券は3/31(日)までの期間限定販売