飯森範親(指揮) パシフィックフィルハーモニア東京

シーズン・オープニングは音楽監督によるフランス作品集

左:飯森範親 ©山岸 伸
右:髙木凜々子 ©Naoya Yamaguchi

 パシフィックフィルハーモニア東京(PPT)の第164回定期演奏会は、サン=サーンス、ドビュッシー、ラヴェルと、19世紀末から20世紀初頭の転換期に活躍したフランスの作曲家3人を特集する。指揮は2022年4月から音楽監督を務める飯森範親。

 演奏される4曲それぞれの作曲年代をみるとドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」が1892〜94年、「海」が1903〜05年、特別ソロコンサートマスター髙木凜々子が独奏を務めるサン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番が1880年、ラヴェルの「ラ・ヴァルス」が1919〜20年。わずか40年の間に集中しているが、当時の世界は交通&通信をはじめとする科学技術の進歩で激しく揺れ動き、社会や文化の古い枠組みが急激に崩れつつあった。

 ドビュッシーは1889年のパリ万博で日本の浮世絵やジャワのガムラン音楽に衝撃を受け、「海」の初版楽譜の表紙を葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」の一部とするよう出版社デュランに要請した。ラヴェルはハプスブルク体制への挽歌としてヨハン・シュトラウスⅡ世のワルツ「おお、美しい5月」(op.375)から想を得た「ラ・ヴァルス」を、パリのバレエ・リュス(ロシア・バレエ団)のために作曲するが、その主宰者ディアギレフは「舞踊向きではない」と言い放ち、ラヴェルと決裂する。かつて「フランスのモーツァルト」とされ神童と呼ばれたサン=サーンスは長く生きた結果、1913年にバレエ・リュスが初演したストラヴィンスキーの「春の祭典」の衝撃を理解できなかった。

 パリを舞台にした文化状況や人間模様が映る、素晴らしく洗練されたプログラム。音楽監督3シーズン目を迎える飯森のバトンテクニックの冴えを期待できる作品でもある。
文:池田卓夫
(ぶらあぼ2024年3月号より)

第164回 定期演奏会 
2024.4/13(土)14:00 東京芸術劇場 コンサートホール
問:パシフィックフィルハーモニア東京チケットデスク03-6206-7356 
https://ppt.or.jp