大野和士(指揮) 東京都交響楽団

世紀末ウィーンを生きた2人の記念年が交差するコンサート

左:大野和士 ©Rikimaru Hotta
右:藤村実穂子 ©R&G Photography

 1964年に85歳で没したアルマ・マーラーは世紀末ウィーンの社交界の名花だった。1902年に宮廷歌劇場の総監督グスタフ・マーラーと結婚し、彼の没後、画家ココシュカとの事実婚的関係を経て建築家グロピウスと再婚。最後に詩人ヴェルフェルの妻となった。つまり、四芸術分野の超一流の男たちを夫に持った稀有な女性だ。実は、彼女自身も楽才があり、若かりし頃はツェムリンスキーに師事し作曲家を目指していた。マーラーに作曲を禁じられてしまったが、若い頃に書いた17曲のピアノ伴奏歌曲作品が遺されている。そのうちの7曲をイギリスの作曲家兄弟デイヴィッド&コリン・マシューズがオーケストラ版に編曲した。演奏会の前半では、その「7つの歌曲」が世界屈指のメゾソプラノ、藤村実穂子の独唱で日本初演される。

 後半は生誕200年のアントン・ブルックナーの交響曲第3番だ。彼の9曲の交響曲(00番、0番を除く)のうち、1873年に初稿が完成したこの作品はリヒャルト・ワーグナーに献呈されたため「ワーグナー」の愛称がある。77年に第2稿が初演されたが、頼みの指揮者ヨハン・ヘルベックの急死により、不慣れな作曲者本人が指揮したせいか失敗する。ブルックナーはさらに改訂し、90年に第3稿をハンス・リヒターの指揮で初演してようやく成功を手にした。今回演奏されるのは、77年の第2稿をレオポルト・ノヴァークが改訂した版だ。第3稿にもノヴァーク版はあるが、大野和士は第2稿を高く評価しているようだ。
文:萩谷由喜子
(ぶらあぼ2024年3月号より)

【定期演奏会1000回記念シリーズ(1)】
【ブルックナー生誕200年記念/アルマ・マーラー没後60年記念】
第996回 定期演奏会Bシリーズ
2024.4/3(水)19:00 サントリーホール
問:都響ガイド0570-056-057 
https://www.tmso.or.jp