JJ ジュン・リ・ブイ(ピアノ)

ショパンコンクール入賞から2年、深みを増す若きピアニストの現在

©I.Sugimura/Bravo

 2021年ショパン国際ピアノコンクールで第6位に入賞したJJ ジュン・リ・ブイ。当時17歳、落ち着いた演奏は若さを忘れさせるもので、審査員のダン・タイ・ソンは、自身の弟子で揃って入賞したブルース・リウとJJについて「ブルースが太陽ならJJは月」と表現していた。

 「私たちは二人とも彼の弟子ですが、性格や弾き方は全く違います。当時の僕は今より内向的でしたし、あれほど大きな舞台のプレッシャーの中で演奏するのは初めてでしたから、余計そう感じられたのでしょう(笑)。でもこの先の未来ではわかりませんよ、人は変わっていくものですから!」

 去る1月、秋田のアトリオン音楽ホールに新たに納入されたShigeru Kawai SK-EXのお披露目リサイタルがあり、ピアノを選定したJJが演奏を担った。実際、その音楽は2年前より自由で、一層はっきり聴衆に語りかけるものになっていた。

 彼はショパンコンクールでもShigeru Kawaiを選び、繊細に楽器を歌わせていた。

 「Shigeru Kawaiの音は温かく、同時にパワフルです。明るくも暗くもなり、そのコントロールがとてもしやすくて、やりたいことがなんでもできます。本当に美しいピアノです」

 深みのある歌、派手さを狙わない表現が彼の魅力といえるが、その音楽を育んだものはなんだろうか。

 「単純な答えかもしれませんが、自分がどういう人間として生まれてきたかを知っていたことかもしれません。育った環境も影響するでしょう。僕は子どもの頃、ホームスクーリングで勉強していていつも家にいたので、自分の世界に生きていたところがあります。それが想像力を育んだのかもしれません」

 もう一つ「自分の音楽の最大のインスピレーションの源」だというのは、やはり師匠のダン・タイ・ソンの存在だ。

 「子どもの頃から先生の弾くショパンのバラード第4番に感動していました。初めてお会いしたのは大学に入るずっと前、11、2歳の頃です。彼には僕がその瞬間必要としていることがお見通しで、いつも的確なアドバイスをくれます。同時に自分で解決策を見つける方法も教えてくれました。ピアニストは個々に違うので、一つの答えはありません。先生は生徒それぞれの長所を引き出すことが得意です」

 ショパンは特別な存在であり続けるが、今後はフランスものやシューベルトに取り組みたいという。

 「フランス音楽が好きで、僕の演奏スタイルに影響を与えていると思います。大好きなシューベルトの音楽は、今後深く探究してみたいです」

 現在19歳、ピアニストとして大切にしていきたいことはなんだろうか。

 「天才作曲家は、我々に解釈するための音楽を与えてくれました。社会はその音楽を共有するため、我々演奏家を必要としてくれています。僕はピアニストとして、解釈者であることを大切に進み続けていきたい。将来、自分が幸せに感じられることをして、それによって聴衆も幸せにすることができていたら良いですね」
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ2024年3月号より)

Profile
カナダ生まれ。第18回ショパン国際ピアノコンクールで最年少参加者(当時17歳)にして第6位入賞を果たした。これまでにヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール(2019)など数多くのコンクールで入賞。北アメリカを中心に、ヨーロッパ、アジアでも演奏活動を行っている。現在はオバーリン音楽院にてダン・タイ・ソンに師事。