エリアフ・インバル(指揮) 東京都交響楽団

第2次ツィクルスの掉尾を飾った凄演の感動、ふたたび!

エリアフ・インバル ©Sayaka Ikemoto

 ——あれから、10年もたつのか。

 その強烈な響きは、まだ耳に残っている。2014年7月、酷暑の時期のサントリーホールに鳴りひびいた、エリアフ・インバル指揮東京都交響楽団による、マーラーの交響曲第10番(デリック・クック補筆版)のことだ。

 第1楽章終盤のきしむ不協和音の咆哮は、絶滅目前の恐竜の断末魔の叫びのような、崩壊の予感にみちていた。そして、グランカッサ(大太鼓)の不気味な強打が、緊張を極限まで高めて始まる終楽章。喜怒哀楽がめまぐるしく入れ替わるうちに、クライマックスの弦楽器のグリッサンドに突入する。無重力状態のような浮遊感を味わわせたのち、音楽は一気に収斂して、高空に吸い込まれるように消える。

 マーラーがほぼ書きあげたのは第1楽章だけで、ほかは未完の草稿を音楽学者クックが補筆したものという弱点など忘れさせる、凄い演奏だった。21世紀になって、いちだんと実力と技術を高めた都響のポテンシャルを最大限に引き出し、頽廃よりも新世紀の澄んで乾いたモダニズムをこの音楽に感じさせたインバルの手腕と円熟に、ただ喝采を送るほかなかった。

 あれは、インバルと都響が2012年から2年かけて行った「新 マーラー・ツィクルス」の、アンコールのように演奏されたものだった。

 それから10年、晩冬の東京芸術劇場で、あの震撼と感嘆の時間に再び逢える。「第3次マーラー・シリーズ」の新たな旅の始まりを、今度はこの曲が告げる。
文:山崎浩太郎
(ぶらあぼ2024年2月号より)

第995回 定期演奏会 Cシリーズ 
2024.2/22(木)14:00
都響スペシャル 
2024.2/23(金・祝)14:00
東京芸術劇場 コンサートホール
問:都響ガイド0570-056-057 
https://www.tmso.or.jp