カーチュン・ウォン&日本フィル 1月東京定期の聴きどころ

「ガムラン」をテーマに、西洋と東洋が交わる刺激的なひととき

文:池田卓夫

 昨年9月、日本フィルハーモニー交響楽団首席指揮者に就いたシンガポール出身の俊英、カーチュン・ウォン(1986~)は「アジアと西洋音楽」の視点を徹底して究める。

カーチュン・ウォン ©Ayane Sato

 1月26日・27日の第757回東京定期演奏会では、カンボジアから米国へ移住したチナリー・ウン(1942~)の「グランド・スパイラル」、カナダ人ながら1931〜39年にバリ島で暮らし、ワールドミュージックの時代に先がけてガムラン音楽を西洋に紹介、後にカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で民族音楽の教授を務めたコリン・マクフィー(1900~1964)の「タブー・タブーアン」と、私たちにとって未知の作品を取り上げる。後者では2台のピアノが活躍、児玉麻里&桃姉妹がプーランクの「2台のピアノのための協奏曲」ともども冴えた技を披露するはずだ。ウン作品は肥沃なインドシナの自然や大河の感触、米国で師事した周文中から受け継いだ中国の旋律などが明滅。ガムランや前衛音楽、ジャズなど雑多な要素が一体になったマクフィー作品と対照をなすが、2人はフランスから米国に帰化した前衛の始祖、エドガー・ヴァレーズ(1883~1965)の流れを汲む作曲家というルーツを共有する。

児玉麻里 ©Sergio Veranes
児玉桃 ©Marco Borggreve

 最後に置かれたドビュッシーの交響詩「海」は1903〜05年に書かれた。初版楽譜の表紙には作曲家本人の強い希望で葛飾北斎の浮世絵「神奈川沖浪裏」の一部を掲げた。ドビュッシーが1889年のパリ万博でガムラン音楽に強い印象を受けた史実も有名で、楽曲それぞれが深く関連する非常に知的なプログラミングといえる。

リハーサルの様子 提供:日本フィルハーモニー交響楽団

【Information】

第757回 東京定期演奏会
2024.1/26(金)19:00、1/27(土)14:00 サントリーホール

出演/
指揮:カーチュン・ウォン[首席指揮者]
ピアノ:児玉麻里*、児玉桃*

曲目/
チナリー・ウン:グランド・スパイラル
プーランク:2台のピアノのための協奏曲 ニ短調*
コリン・マクフィー:タブー・タブーアン*
ドビュッシー:交響詩「海」

問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911
https://japanphil.or.jp