ティーレマンってどんな人?
ウィーン・フィル ニューイヤーコンサートに登場する指揮者をご紹介

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元日の放送でおなじみ、ウィーン・フィルのニューイヤーコンサート。2024年はドイツの指揮者クリスティアン・ティーレマンが登場します。「名前は聞いたことがあるけど、どんな人なの??」そんな方のために、経歴、音楽のスタイル、ウィーン・フィルとの関係の観点からティーレマンをご紹介します!

文:城所孝吉

超名門からも愛されるドイツを代表するマエストロ

 2024年のウィーン・フィル、ニューイヤーコンサートで指揮するクリスティアン・ティーレマンは、1959年ベルリン生まれのドイツ人指揮者である。19歳の時からベルリン・ドイツ・オペラでコレペティトール(歌手に稽古をつけるピアノ伴奏者)として働き、80年代半ばには指揮者としてのキャリアをスタート。88年にニュルンベルク州立歌劇場、97年にベルリン・ドイツ・オペラの音楽総監督に就き、ワーグナー、R・シュトラウスのオペラで高い評価を確立した。
 2000年代に入ってからは、ミュンヘン・フィル(2004~11年)、シュターツカペレ・ドレスデン(2012~24年)の首席指揮者を歴任している。また、ベルリン・フィルやウィーン・フィルにも定期的に客演した。バイロイト音楽祭では、2015年から20年まで音楽監督として活躍。現在64歳だが、同世代でトップクラスの名声を誇る数少ないドイツ系指揮者といえる。

独自のスタイルを貫く現代の「巨匠」

 ティーレマンは、ひと言で表現すれば「反時代的な」指揮者だ。今の音楽界における流行は、バロックからロマン派に至る音楽を、古楽のスタイルで演奏すること。バッハやモーツァルトはもちろん、シューマンやブルックナーを透明な響きで弾くことが、最先端で良いこととされている。知的で洗練された、軽やかなスタイルが好まれ、批評家たちからも高い評価を得ている。
 これに対してティーレマンは、その真逆の方向を向いている。上記のように、ワーグナー、R.シュトラウスで、1970~80年代に全盛だった「巨匠的」スタイルを志向し、重厚な響きと重々しいテンポ、うねりのある濃厚な表現を打ち出した。カラヤンに代表されるドイツ伝統の演奏様式を、現代によみがえらせたと言ってもいい。ステージマナーも、今風の「感じのいい」ものではなく、強面で威圧的である(容姿も1メートル90センチ以上の長身で、押し出しが強い)。同時に「権力志向」という風評があり、オーケストラやマネージメントと喧嘩別れしてきた過去がある。それゆえ欧州の音楽業界では、「一筋縄ではいかない難しい人物」とみなされている。
 しかし、それが面白いのである。今のトレンドに追従するのではなく、我が道を行く方がゴツゴツしていて個性的。濃厚なワーグナーを聴きたい人は依然として多いし、さらさらした演奏が多数派となっている現在、古き良きスタイルを希求する声も大きい。以前はテンポを恣意的に伸縮させるなど、「クセ」が鼻についたが、最近は正統派なタクトを聴かせるようになった。指揮姿にも、歌舞伎俳優のようなケレン味があり、泣く子も黙る「大物」の雰囲気を漂わせている。

伝統を汲む両者だから実現する古くて新鮮なサウンド

 こうした持ち味は、ウィーン・フィルと相性抜群である。彼ら自身の演奏様式が、カラヤン等の巨匠たちによって培われてきた、重厚で陰影の深いものだからだ。オーケストラの側でも、伝統を維持したい気持ちがあるため、ウィーン・フィルとティーレマンの関係は、きわめて良好である。両者は最近、ブルックナーの交響曲全曲を録音したが、これはウィーン・フィルの自主制作盤であった。つまり、ウィーン・フィル自身が「自分たちのブルックナー」として後世に残したいのが、ティーレマンとのそれなのである(ウィンナ・ワルツの場合は、少々重厚すぎるかもしれないが)。
 今秋ベルリン国立歌劇場では、ティーレマンが来年より、同劇場の音楽総監督となることを発表した。これを聞いたウィーン・フィルは、少し悔しい思いをしたかもしれない(※ウィーン・フィルは、首席指揮者を設けない運営方針である)。いずれにしても彼は、「ドイツ王道の巨匠指揮者」であり続け、さらにパワーアップしていくと思われる。

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【Information】
『ウィーン・フィル ニューイヤーコンサート』
ウィーンから生中継!!新年の喜びをウィンナ・ワルツとポルカで!

2024.1/1(月・祝)19:00 NHK Eテレ
→1/6(土)14:00 に変更になりました(お住まいの地域によって放送時間帯が異なる場合がございます)
出演/
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:クリスティアン・ティーレマン

演奏予定曲目/
1.アルブレヒト大公行進曲 作品136(カール・コムザーク)
Erzherzog Albrecht-Marsch, op. 136 / Karl Komzák
2.ワルツ「ウィーンのボンボン」 作品307(ヨハン・シュトラウス2世)
Wiener Bonbons. Walzer, op. 307 / Johann Strauß II.
3.ポルカ・フランセーズ「フィガロ・ポルカ」 作品320(ヨハン・シュトラウス2世)
Figaro-Polka. Polka française, op. 320 / Johann Strauß II.
4.ワルツ「全世界のために」(ヨーゼフ・ヘルメスベルガー2世)
Für die ganze Welt. Walzer / Josef Hellmesberger (Sohn)
5.ポルカ・シュネル「ブレーキかけずに」 作品238(エドゥアルト・シュトラウス)
Ohne Bremse. Polka schnell, op. 238 / Eduard Strauß
6.オペレッタ「くるまば草」序曲 (ヨハン・シュトラウス2世)
Overture to the Operetta “Waldmeister” / Johann Strauß II.
7.「イシュル・ワルツ」遺作ワルツ 第2番(ヨハン・シュトラウス2世)
Ischler Walzer. Nachgelassener Walzer Nr. 2 / Johann Strauß II.
8.「ナイチンゲール・ポルカ」 作品222(ヨハン・シュトラウス2世)
Nachtigall-Polka, op. 222 / Johann Strauß II.
9.ポルカ・マズルカ「山の湧水」作品114(エドゥアルト・シュトラウス)
Die Hochquelle. Polka mazur, op. 114 / Eduard Strauß
10.「新ピチカート・ポルカ」作品.449(ヨハン・シュトラウス2世)
Neue Pizzicato-Polka. op. 449 / Johann Strauß II.
11.バレエ「イベリアの真珠」から「学生音楽隊のポルカ」(ヨーゼフ・ヘルメスベルガー2世)
Estudiantina-Polka aus dem Ballett “Die Perle von Iberien” / Josef Hellmesberger (Sohn)
12.ワルツ「ウィーン市民」 作品419(カール・ミヒャエル・ツィーラー)
Wiener Bürger. Walzer, op. 419 / Carl Michael Ziehrer
13.カドリーユ WAB 121 [管弦楽編曲W. デルナー](アントン・ブルックナー)
Quadrille, WAB 121 (Orchestr. W. Dörner) / Anton Bruckner
14.ギャロップ「あけましておめでとう!」(ハンス・クリスティアン・ロンビ)
Glædeligt Nytaar! Galopp / Hans Christian Lumbye
15.ワルツ「うわごと」 作品212(ヨーゼフ・シュトラウス)
Delirien (Deliriums), Waltz, op. 212 / Josef Strauß
他アンコール曲3曲予定

ニューイヤー・コンサート初演奏の作品(8曲予定)

*シュトラウス一家の作品名は日本ヨハン・シュトラウス協会刊の『ヨハン・シュトラウス2世作品目録』(2006)、『ヨーゼフ・シュトラウス作品目録』(2019)に従っています。 
(情報提供:株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ)

NHK Eテレ
ウィーン・フィル ニューイヤーコンサート

https://www.nhk.jp/p/ts/DMWZNWL16M/episode/te/MXPJV9PY35/