音楽の都がいちばん輝く瞬間(とき)〜ウィーン・フィル ニューイヤー・コンサート2024の聴きどころ

文:飯尾洋一

 大晦日に紅白歌合戦があるように、元日にはウィーン・フィル ニューイヤー・コンサートがある。毎年、ウィーン楽友協会から生中継されるニューイヤー・コンサートは、クラシック音楽ファンにとって欠くことのできないお正月の風物詩だ。元日からお店が営業していたり、年賀状が減ったりと、年々お正月らしさがなくなってきているといわれるが、ニューイヤー・コンサートさえ見れば気分は一気にお正月だ。

2023年のニューイヤー・コンサートより © Dieter Nagl

変わらないことに意味がある!

 ニューイヤー・コンサートの魅力は、ふたつの相反する要素で成り立っている。ひとつは「お約束」、もうひとつは「新鮮さ」。毎年、プログラムの中心となるのはシュトラウス・ファミリーによるウィンナ・ワルツとポルカで、リラックスして楽しめる曲ばかりがそろっている。ウィーン・フィル伝統の豊麗な響きでワルツとポルカをたっぷり楽しんで、最後にアンコールとしてヨハン・シュトラウス2世の「美しく青きドナウ」とヨハン・シュトラウス1世の「ラデツキー行進曲」を聴く。この流れは毎年同じ。「美しく青きドナウ」の序奏が始まると、客席から「待ってました」とばかりに拍手が入り、指揮者はいったん演奏を中断して、客席に向かって新年の挨拶を述べる。この一連の流れがすっかり様式化している。「ラデツキー行進曲」では指揮者が客席を向いて、拍手を指揮するのも恒例の演出。このコンサートはたくさんの「お約束」で成り立っている。飽きもせずに毎年同じことをやっていると思う人もいるかもしれないが、お正月行事というものは変わらないことに意味がある。変わることなく、安心して楽しめる上質の音楽がそこにある。昨今の世界情勢を鑑みれば、これがどれほどありがたいことか、痛感せずにはいられない。

新年のステージを彩ったスター指揮者たち

 その一方で、ニューイヤー・コンサートには「新鮮さ」も用意されている。かつて、ニューイヤー・コンサートには毎年、決まった指揮者が登場していた。ヴィリー・ボスコフスキーは25年にもわたってこのコンサートを指揮した。1980年からはロリン・マゼールが指揮を務めるようになった。このあたりからニューイヤー・コンサートは国際化路線を歩みだし、ぐっと華やかなイベントになってくる。そして87年のカラヤン以降、毎回異なる指揮者が招かれるようになった。クライバー、ムーティ、アバド、小澤、メータら、時代を代表する名指揮者たちが新たな彩りを加えてゆく。今やここに呼ばれることが超一流指揮者の証とさえ言えるかもしれない。

© A.Sugaya

 こうして招かれたスター指揮者たちは、必ずしもウィンナワルツやポルカを得意とする指揮者ばかりではないのだが、それがむしろコンサートの魅力を高めているように思う。ウィーン・フィルはワルツやポルカについて確固とした自分たちのスタイルを持っている。一方で指揮者にはその指揮者独自の色がある。両者がぶつかり合って、どんな化学反応を起こすのか。そこにおもしろみがある。マゼールのウィンナワルツも当初は議論を呼んだが、振り返ってみれば新たな伝統の誕生だった。

重くない(!)ブルックナーが登場

 2024年の指揮者はクリスティアン・ティーレマン。ブルックナーなど重厚な音楽を得意とする印象が強い。そんなティーレマンが優雅なワルツや軽快なポルカを指揮する姿はなかなかの見もの。ティーレマンのもうひとつの顔を垣間見ることになるだろう。しかも、2024年はブルックナー生誕200年。さすがにブルックナーはワルツを書いていないが、代わりに「カドリーユ」WAB121がとりあげられる。まさか、元日にブルックナーを聴けるとは! お雑煮を食べようと思ったら鰻重だった、くらいのインパクトがある。もっともカドリーユは舞曲の一種であって、ブルックナーといえども交響曲のようなヘビーな曲調ではない。きっとニューイヤー・コンサートになじむはず……たぶん。

2023年はフランツ・ウェルザ―=メストがタクトをとった © Dieter Nagl

 実は予定される15曲のうち、ブルックナーを含む8曲がニューイヤー・コンサート初登場となる。半分以上の曲が新顔なのだ。たとえば、ヨハン・シュトラウス2世の「フィガロ・ポルカ」や「ナイチンゲール・ポルカ」、ヨーゼフ・ヘルメスベルガー2世のワルツ「全世界のために」、ハンス・クリスティアン・ロンビのギャロップ「あけましておめでとう!」など。かなりフレッシュな選曲だ。
 ウィーン・フィル楽団長ダニエル・フロシャウアーいわく、「ティーレマンは一曲一曲のワルツやポルカをまるでオペラのように指揮する」。オペラみたいなワルツ、オペラみたいなポルカ。うーん、なんとなくだけど、わかるような? はたしてどんな演奏になるのか、答えは元日に!

【Concert Information】
『ウィーン・フィル ニューイヤーコンサート』
ウィーンから生中継!!新年の喜びをウィンナ・ワルツとポルカで!

2024.1/1(月・祝)19:00
NHK Eテレ
→1/6(土)14:00 に変更になりました(お住まいの地域によって放送時間帯が異なる場合がございます)
[演奏予定曲目]
1.アルブレヒト大公行進曲 作品136(カール・コムザーク)
Erzherzog Albrecht-Marsch, op. 136 / Karl Komzák
2.ワルツ「ウィーンのボンボン」 作品307(ヨハン・シュトラウス2世)
Wiener Bonbons. Walzer, op. 307 / Johann Strauß II.
3.ポルカ・フランセーズ「フィガロ・ポルカ」 作品320(ヨハン・シュトラウス2世)
Figaro-Polka. Polka française, op. 320 / Johann Strauß II.
4.ワルツ「全世界のために」(ヨーゼフ・ヘルメスベルガー2世)
Für die ganze Welt. Walzer / Josef Hellmesberger (Sohn)
5.ポルカ・シュネル「ブレーキかけずに」 作品238(エドゥアルト・シュトラウス)
Ohne Bremse. Polka schnell, op. 238 / Eduard Strauß
6.オペレッタ「くるまば草」序曲 (ヨハン・シュトラウス2世)
Overture to the Operetta “Waldmeister” / Johann Strauß II.
7.「イシュル・ワルツ」遺作ワルツ 第2番(ヨハン・シュトラウス2世)
Ischler Walzer. Nachgelassener Walzer Nr. 2 / Johann Strauß II.
8.「ナイチンゲール・ポルカ」 作品222(ヨハン・シュトラウス2世)
Nachtigall-Polka, op. 222 / Johann Strauß II.
9.ポルカ・マズルカ「山の湧水」作品114(エドゥアルト・シュトラウス)
Die Hochquelle. Polka mazur, op. 114 / Eduard Strauß
10.「新ピチカート・ポルカ」作品.449(ヨハン・シュトラウス2世)
Neue Pizzicato-Polka. op. 449 / Johann Strauß II.
11.バレエ「イベリアの真珠」から「学生音楽隊のポルカ」(ヨーゼフ・ヘルメスベルガー2世)
Estudiantina-Polka aus dem Ballett “Die Perle von Iberien” / Josef Hellmesberger (Sohn)
12.ワルツ「ウィーン市民」 作品419(カール・ミヒャエル・ツィーラー)
Wiener Bürger. Walzer, op. 419 / Carl Michael Ziehrer
13.カドリーユ WAB 121 [管弦楽編曲W. デルナー](アントン・ブルックナー)
Quadrille, WAB 121 (Orchestr. W. Dörner) / Anton Bruckner
14.ギャロップ「あけましておめでとう!」(ハンス・クリスティアン・ロンビ)
Glædeligt Nytaar! Galopp / Hans Christian Lumbye
15.ワルツ「うわごと」 作品212(ヨーゼフ・シュトラウス)
Delirien (Deliriums), Waltz, op. 212 / Josef Strauß
他アンコール曲3曲予定

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:クリスティアン・ティーレマン

ニューイヤー・コンサート初演奏の作品(8曲予定)

*シュトラウス一家の作品名は日本ヨハン・シュトラウス協会刊の『ヨハン・シュトラウス2世作品目録』(2006)、『ヨーゼフ・シュトラウス作品目録』(2019)に従っています。 
(情報提供:株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ)
https://www.wienerphilharmoniker.at/en/newyearsconcert/newyearsconcert2024

【CD Information】
ニューイヤー・コンサート2024/クリスティアン・ティーレマン&ウィーン・フィル

[発売日] 
◎デジタル配信(通常配信・24ビット96kHzハイレゾ配信・ストリーミング)
アルバム全曲 2024年1月12日予定
アルバム全曲配信に先駆けて、単曲先行配信が2024年1月5日に開始される予定

◎国内盤(日本プレス)
2CD:SICC 2352~3 2024年1月24日予定 定価\3,190
ブルーレイ:SIXC 105 2024年2月14日予定 税込\6,270
レーベル:ソニークラシカル

◎輸入盤(ヨーロッパ・プレス)の日本発売予定日
2CD:19658858932 2024年1月19日予定 
DVD:19658858949 2024年1月26日予定
BD:19658858959 2024年1月26日予定
3LP / VINYL:19658858971 2024年1月26日予定

いずれもオープン価格
https://www.sonymusic.co.jp/artist/christianthielemann/info/558332

© A.Sugaya