若き大器が燦爛たるプログラムで熱狂の渦へといざなう
このオーケストラ、なかなかお目が高い。日本フィルがカーチュン・ウォンを首席指揮者に選んだとき、そんな言葉が口を衝いた。シンガポール生まれの新鋭指揮者は、細部をシャープな手つきで彫琢しつつ、じつに大きな音楽を作り出す。明確なビジョンの持ち主で、好奇心も旺盛。これからいっそう世界を舞台に活躍すること間違いない。今秋、そんな彼とともに、日本フィルの新しい時代が始まった。
アジアの指揮者として、この地域ならではの作品にも意欲を見せるカーチュン。とりわけ日本フィルとは伊福部昭の作品を継続的に取り上げる。今回のプログラムも、舞踊曲「サロメ」より〈7つのヴェールの踊り〉で開始。高揚していく伊福部サウンドがホールを轟かす。
そして、ラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」。ピアノは、華麗なテクニックとともに、深い陰影感が魅力の上原彩子だ。魔性を帯びたように目まぐるしく変化していく音楽が期待できるはずだ。
エロスとタナトスが共振する熱狂的なプログラムの最後を飾るのが、ベルリオーズの「幻想交響曲」。ラフマニノフ作品とはグレゴリオ聖歌の「怒りの日」繋がりもある。オーケストラのバランスを整えつつ、鮮烈な表情を与えていく指揮者の持ち味が発揮される作品だ。
そして、「幻想交響曲」といえば、渡邉曉雄、ミュンシュ、小澤征爾、小林研一郎、ラザレフなどとともに熱演を繰り広げてきた歴史が日本フィルにはある。果たして、若き首席指揮者はこの殿堂に加わることができるだろうか?
文:鈴木淳史
(ぶらあぼ2024年1月号より)
第394回 横浜定期演奏会
2024.1/20(土)17:00 横浜みなとみらいホール
第403回 名曲コンサート
2024.1/21(日)14:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911
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