INTERVIEW 加藤昌則(作曲)

オペラ、管弦楽、声楽、合唱など幅広い分野で楽曲提供を行う作曲家の加藤昌則さん。2024年1月に挑むのは王子ホールで行われる能とのコラボレーション第3弾。これまでクラシック音楽を挿入する形で能との共存を図ってきたが、今回は作品後半を「音楽舞劇風」に置き換えてしまうというチャレンジングな試み。

演目は「天鼓」。皇帝によって命を奪われてしまった鼓の名手である少年天鼓。後日皇帝に呼び出された天鼓の父が、息子を思い嘆き悲しみながらも鼓を打つと素晴らしい音が鳴った。
皆が感動し、かつて天鼓が亡くなった呂水のほとりで音楽葬を行っていると、天鼓の霊が現れ、鼓を打ち、喜びの舞を舞う。

シテ(主役)を武田宗典さん、小鼓を人間国宝の大倉源次郎さんが勤め、篠崎“まろ”史紀さんほか3名のヴァイオリニストも登場する。

能 × クラシック音楽
かつてない融合から生まれる新しい世界観

取材・文:山崎浩太郎

 TOKYO ART & LIVE CITYによる、観世宗家と王子ホールのコラボレーションの第3作「天鼓 I love music」が1月に上演される。
 今回は後半の音楽を新規に作曲し、能とクラシック音楽の新たな融合の場になるという。作曲を担当される加藤昌則さんにお話をうかがった。


――クラシックを好きな方でも、能には縁遠い方も少なくないと思います。お能の面白さ、魅力は、どういうところにあるんでしょうか?

 僕もこのコラボレーション企画が始まるまで、能には縁遠かったんです(笑)。
 僕の今までの活動は、縁遠いものとの縁ができて始まることが意外とあるんです。お能のことも話がきて、何も知らないのに「できます」と答えてから調べて、面白さを知りました(笑)。歌舞伎やオペラには、視覚的にも動きがいっぱいあってエンタメ性がありますが、それに比べるとお能は、見どころがわからないところが、正直いってありますよね。神様に奉納するものだというのも、ただエンタメとして見るものとは違います。
 でも、これまで上演した「羽衣」にしても「安達原」にしても、人間の奥底にある、いろいろなドロドロしたものや逆に美しいもの、信仰心みたいなものが物語の中にあって、何か人間の原点みたいなものがあるというところにすごく惹かれました。お能の舞を見ても、とても静かなのにものすごいエネルギーを感じて、一見するだけのものとは違うものが隠れている。
 今の人からするととっつきにくい、とらえどころがないものなのかもしれません。しかし逆にいえば、今の人たちが失ってしまっている感覚、見た目だけの表面ではない、もう少し感覚をとぎすまして見るべきものとして、あらためて認知されてもいいのかなというのを、お能に触れたことで感じました。
 自分はこれまで西洋音楽だけをやってきましたが、ここ15年ぐらいは、日本人としてのアイデンティティをすごく意識するようになりました。和というものに興味を持ったり、あるいは自分のなかに和の感覚があることに気づきだしたりして、いいタイミングだったのかもしれません。

――「羽衣」からコラボレーションが始まりました。あのときは、加藤さんの音楽をお能の途中につけくわえる形でしたね。

 「羽衣」では、まず一つのやりかたとして、途中に挿入してみましたが、お能のなかに入り込めないジレンマを感じました。次の「安達原」では、もっと入り込むかたちで音楽をつけてみました。でもお囃子のない静かな場面に音楽をつけてみても、そこは静かであることに意味があったりするので、やはりこれも難しい。完成された作品に違う分野のものを挿入することには限界があると感じました。
 3回目はどうするか。選択肢は2つしかない。難しいから無理と思うか、何か創作で、新しい舞台作品を一からつくりあげていくか。
 つくるとしても、具体的にどうしたらいいかわからない状態のときに、偶然ある新聞で、「天鼓」というお能を題材にした記事を読んだんです。とても美しい話だったので詳しく調べたら、後半が音楽葬だという。ストーリー自体にもオペラに通じるようなところがあって、これは題材として使えるんじゃないかと思ったんです。
 そこで、武田宗典さん(シテ)たちとの打ち合わせのとき、「天鼓」の後半部分で、ストーリーはそのままにお能を離れて、音楽葬の音楽をクラシック側に委ねてもらうのはどうですかと提案し、賛成していただけました。
 ですから今回は、前半はお能を、後半はクラシックの音楽作品として楽しむことができます。どのようなものになるのか、お能を知らない方にも、お能がお好きな方にも、ともに楽しんでいただきたいと思っています。

――後半は完全な新作という形ですね。和楽器も加わるのですか。

 「天鼓」なので、小鼓(大倉源次郎)だけ残します。今回は王子ホールですが、能楽堂での上演も考えて、弦楽四重奏ではなく、ヴァイオリン4本という編成です。それに合わせて、武田さんにお能の舞をしていただきます。

――一種のバレエ音楽のような。

 そう、まさにそんな感覚です。後半は篠崎“まろ”史紀さんに舞台に立っていただき、父親の思いをヴァイオリンで演奏してもらいます。息子を権力者に殺された父親の悲哀、無常の思い。でも、ずっと悲しいままでもないだろう。鼓の音がキーワードになって、だんだん音楽に変化が生まれる、などと考えています。まろさんならではの、ヴァイオリンが語る父親の言葉を、かみしめ味わうように聴いていただけると思います。

――おしまいに、お客様へのメッセージをお願いします。

 新しいものに行くというのは、面白いかどうか保証が全然ないだけに、けっこう賭けになりますよね。でも今回の「天鼓」はお話もとても素敵です。お能には縁遠いという方にも楽しんでいただけるものになると思います。

――ありがとうございます。楽しみにしております。

【Information】
王子ホール × 観世宗家監修「天鼓 I love music」

2024.1/25(木)19:00 王子ホール
出演/
シテ:武田宗典 ワキ:大日方寛 アイ:野村太一郎
地謡:岡久広 浅見重好 藤波重彦 角幸二郎 清水義也 木月宣行 坂井音隆 武田祥照
後見:武田宗和 山階彌右衛門
笛:松田弘之 小鼓:大倉源次郎 大鼓:大倉慶乃助
ヴァイオリン:篠崎“まろ”史紀、倉冨亮太、東條太河、小西健太郎
作曲:加藤昌則 演出:田尾下哲 照明:稲葉直人 舞台監督:蒲倉潤

問:東京アート&ライブシティ事務局03-5909-3060
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