群馬交響楽団 2024-2025シーズンの聴きどころ

飯森体制2シーズン目は海外勢が続々登場!

 群響は戦争直後の混乱期に市民が立ち上げたオーケストラにルーツを持つ地方楽団の草分けだ。2019年には新たにオープンした高崎芸術劇場に拠点を移し理想的な練習・演奏環境を手に入れ、現在は23年4月より常任指揮者に就任した飯森範親のもと、25年の創立80周年に向けてさらなる飛躍を遂げようとしている。先日発表された2024-25シーズン・プログラムも、様々な仕掛けやアイディアを組み込んだ意欲的なラインナップとなった。その意図を読み解き、飛躍のゆくえを占ってみよう。

上段左より:飯森範親 ©山岸 伸/パスカル・ロフェ ©N.Ikegami/デイヴィッド・レイランド ©Jean-Baptiste Millot
下段左より:アレクサンダー・リープライヒ ©Sammy Hart/ティル・フェルナー ©Fran Kaufmann

節目の定期は凝ったプログラムで

 まず飯森は10回の定期演奏会のうち3プログラムを振る。7月(第600回記念)、9月の2回はそれぞれメインにR.シュトラウス「家庭交響曲」、オルフ「カルミナ・ブラーナ」という大作を取り上げる。二人はミュンヘンを拠点に活躍した作曲家で、この地で学んだ飯森の解釈は師サヴァリッシュの直伝となる。飯森体制第一期となった今シーズン、群響はアンサンブル力アップのために、すべての定期演奏会にモーツァルトを組み込んだが、この2回でもモーツァルト作品を演奏する(第600回にはケッヘル番号600の「6つのドイツ舞曲」!)。

 就任にあたって飯森はプログラムに3年の任期を貫く2本の縦糸を織り込んでいる。R.シュトラウスの大曲(今シーズンは「英雄の生涯」)と並ぶもう一つの縦糸が「交響曲第9番」。25年3月定期のマーラーの9番は今シーズンのブルックナーの9番に続くもので、3年目にはベートーヴェンの「第九」へとつなぐ予定。

上段左より:アレクセイ・ヴォロディン ©Kaori Nishida/マルク・ブシュコフ ©Nikolaj Lund/ティボー・ガルシア ©Marco Borggreve
下段左より:エディクソン・ルイス/伊藤文乃

注目の指揮者・ソリストが来日

 ところで、これまでと大きく異なる来シーズンの特徴に、指揮者・ソリスト陣の大幅な国際化が挙げられる。スイスのミシェル・タバシュニク(4月)、フランスのパスカル・ロフェ(6月)、ベルギーのデイヴィッド・レイランド(10月)、スペインのアントニオ・メンデス(25年1月)、ドイツのアレクサンダー・リープライヒ(2月)と国際色豊かな指揮者陣が月替わりで登場。ソリストもティル・フェルナーやアレクセイ・ヴォロディンといったピアノ界のスター、飯森がその音色にほれ込んだマルク・ブシュコフ(ヴァイオリン)のほかに、ギターのティボー・ガルシア、コントラバスのエディクソン・ルイス(ベルリン・フィル奏者)など多彩な名手が並ぶ。世界の動向にもアンテナを巡らすことは、団員のモチベーション向上につながるだけでなく、世界に誇れる地元オケとして市民のイメージアップにも寄与するはずだ。

楽員のソロ起用がさらにパワーアップ

 モチベーション・アップのもう一つの仕掛けは、団員をソリストに積極的に起用する戦略である。ソロ・コンサートマスターの伊藤文乃はリムスキー=コルサコフ「シェエラザード」(10月)のソロを務めた翌11月には、チェロ首席の長瀬夏嵐とブラームスの二重協奏曲を演奏。25年1月のモーツァルトの協奏交響曲では管楽器4パートの首席がアンサンブルを披露、2月定期ではコントラバス首席の市川哲郎がエディクソン・ルイスとボッテジーニ作品で共演する。こうしたチャレンジもまた、地元の音楽家のプロフィールを市民に深く知ってもらうチャンスにもなるだろう。

 地域密着というミッションを忠実に果たしつつ、世界にも窓を開きインターナショナルな風を吹き込む。大曲を通じオーケストラ芸術の醍醐味を提供しつつ、室内楽的な作品も適所に組み入れアンサンブルの緻密化を目指す。異なる方向性を巧みに織り込んだ、なかなかに考えられたラインナップなのだ。

 こうした配慮が早くも功を奏しているのか、楽団が和やかでとてもよい雰囲気になってきたと飯森やコンマスの伊藤は口を揃える。飯森の祖父母は群馬にルーツを持つということもあり、群馬県民の応援のボルテージもますます高まっていくことだろう。群響は東京定期も行っているが、地元の熱気などは現地でしか味わえないから一度赴いてみるのも一興ではないか。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2024年1月号より)

問:群馬交響楽団事務局027-322-4944 
http://www.gunkyo.com
※2024-25シーズンの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。