INTERVIEW 寺神戸 亮(指揮/ヴァイオリン)

北とぴあ国際音楽祭2023 ラモー最晩年の傑作《レ・ボレアード》の魅力を語る

取材・文:岸純信(オペラ研究家)

 東京の冬の名物フェスティバル、北とぴあ国際音楽祭。2023年期待の公演は、ラモー最晩年の傑作《レ・ボレアード》である。このオペラは1763年にパリで舞台稽古を始めたが、なぜか上演されず、世界初演は200年もあとの1964年になってから。でも、音楽性が高く評価され、今では知名度の高いオペラに。指揮とヴァイオリンを務める寺神戸亮に演奏への抱負を訊ねてみた。

寺神戸亮(c)Tadahiko Nagata

 「この音楽祭では折に触れてラモーを取り上げてきました。オペラ処女作《イポリートとアリシ》の他、ほぼ唯一の喜劇《プラテ》やオムニバスの《エベの祭典》などいろいろなタイプの作品です。《イポリート》の時に強く感じたことは、オペラ第1作目で非常に高い完成度に達しており、特に器楽の部分、序曲や舞曲、そして効果音において、リュリを遥かに凌ぐ効果の高さと斬新さで耳を奪う反面、朗唱部では完全にリュリのスタイルを踏襲していたことです」

 偉大なる先輩の美点を、ラモーは素直に取り入れた。

 「そうですね。その姿勢は《レ・ボレアード》まで揺るぎなく、ラモーにとってはリュリが完成させたフランスの叙唱様式は完璧なものであったのです」

 では、ラモー最晩年のオペラとしての注目点は?

 「《レ・ボレアード》には、ひと昔前なら演奏者に任せるべく明記しなかったであろう装飾音を実音で、実際に演奏してほしい長さで記譜している部分が多いです。特に歌のパートにそれが多くて驚かされますね。オーケストラでも、フランス特有の不均等なリズム、ノーツ・イネガル(notes inégales)と思われるものが符点音符で記されていて、同じモティーフが歌に出てくる時は8分音符のみで書かれていたりします。当時、演奏習慣の変化が起きていたのかもしれません。ラモーのオペラには、前衛的ともいえる斬新さと保守的な部分が混じっています。彼が当時の音楽家や聴衆、そして後世に伝えたかったのは何なのか、ラモーの魂が蘇ったら聞いてみたいですね」

 実は、寺神戸手兵の演奏団名も『レ・ボレアード』。

 「オーケストラの団名にしたのは、ある意味『言葉遊び』なんです。《レ・ボレアード》はギリシャ神話の『北風の神々』が題材なので、北風の神と北区の北をかけて『北区からの風―メッセージ』という意味を込めました。《レ・ボレアード》全曲の舞台上演は今回が日本初です。非常に貴重な機会ですので、多くのお客様にご覧いただきたいと願っています」

左上より:カミーユ・プール(c)LISA LESOURD/与那城敬(c)Hiromi NAGATOMO/
湯川亜也子/ピエール=フランソワ・ドレ/
松本更紗/レ・ボレアード(c)K.Miura

Information】
北とぴあ国際音楽祭2023
ラモー作曲 オペラ《レ・ボレアード》(セミ・ステージ形式/フランス語上演・日本語字幕付)

12/8(金)18:00、12/10(日)14:00 北とぴあ さくらホール

●出演
指揮・ヴァイオリン:寺神戸亮
合唱・管弦楽:レ・ボレアード
演出:ロマナ・アニエル
振付・バロックダンス:ピエール=フランソワ・ドレ
バロックダンス:クラコヴィア・ダンツァ(ポーランド)、松本更紗
アルフィーズ:カミーユ・プール(ソプラノ)
アバリス:大野彰展(テノール)
アダマス/アポロン:与那城敬(バリトン)
セミル/ポリムニ:湯川亜也子(メゾソプラノ)
カリシス:谷口洋介(テノール)
ボリレ:山本悠尋(バリトン)
ボレアス:小池優介(バリトン)
ニンフ:鈴木真衣(ソプラノ)
アモール:鈴木美紀子(ソプラノ)

●料金
12/8(金)18:00
一般:SS席 8,000円 S席 6,000円 A席 3,000円
北区民割引:SS席 7,000 円 S席 5,000円
U-25:SS席 4,000円 S席 3,000円 A席 1,500円

12/10(日)14:00
一般:SS席 9,000円 S席 7,000円 A席 4,000円
北区民割引:SS席 8,000 円 S席 6,000円
U-25:SS席 4,500円 S席 3,500円 A席 2,000円

問:北区文化振興財団03-5390-1221
https://kitabunka.or.jp/himf