豪華メンバーが心を射貫く名曲で繰り広げる一夜限りの熱きバトル
他ではみられない豪華歌手20名が紅白に分かれて競い合う「オペラ歌手 紅白対抗歌合戦 〜声魂真剣勝負〜」も今年で8回目。コロナ禍がようやく落ち着きをみせ、出場歌手一同、観客の前で思いきり歌える喜びを、これまで以上に噛み締めながら着々と準備を整えているという情報が入ってきた。今年は例年にも増してすごい勝負となりそうだ。以下に、現時点での主な観どころ、聴きどころを紹介しよう。
まずは紅組。「オペラ紅白」常連のソプラノ砂川涼子は、日本オペラの代表作である《夕鶴》から主人公つうのアリア〈与ひょう、あたしの大事な与ひょう〉を歌う。砂川は今年《夕鶴》に初挑戦して大好評を博した。日本が誇るプリマドンナが歌う日本の名アリア、これは聴き逃せない。同じく常連のメゾソプラノ林美智子は、これまで誰も取り上げてこなかったガーシュウィン《ポーギーとベス》から〈サマータイム〉に挑戦。ジャズのスタンダードナンバーともなっている曲だが、表現力・演技力ともにわが国随一の林がどんな風に聴かせてくれるのか、期待が高まる。
次に白組。トップバッターには日本を代表するテノール樋口達哉が登場。ジョルダーノ《アンドレア・シェニエ》から〈ある日、青空を眺めて〉で観客の心を鷲掴みにするのは間違いない。新国立劇場にも多数出演を重ねているバスの妻屋秀和が歌うのは、モーツァルトの《フィガロの結婚》からバルトロのアリア〈復讐だ〉。迫力ある低音が繰り出す機関銃のような言葉の連続が聴きものだ。
他にも、大村博美が歌う《道化師》の〈鳥の歌〉、加納悦子のリヒャルト・シュトラウス《ばらの騎士》、村上敏明と今井俊輔によるビゼー《真珠採り》からの二重唱、彌勒忠史によるブリテン《夏の夜の夢》のカウンターテナーのアリアなど、ヴェリズモ・オペラからドイツ、フランス、イギリスと様々な国々、時代のオペラが聴けるのも嬉しい。
もちろん、そうしたオペラ通を唸らせるプログラムだけが「オペラ紅白」の魅力ではない。公式サイトとプログラムには、歌手や指揮者(田中祐子、垣内悠希)、司会者からのメッセージが掲載されており、それぞれの個性溢れる素顔が垣間見られる。また、毎年司会を務める本田聖嗣が紹介するオペラ・トリビアは、オペラ初心者にとってこの公演を十分に楽しむための道案内となっている。
そして忘れてはいけない「オペラ紅白」最大のポイントは、観客が勝敗を判断する審査員になること。すべての演奏が終わった後、観客はプログラムの赤面か白面を掲げ、麻布大学野鳥研究部がそれを数えて勝敗が決する。この参加型形式も、観客席が熱気にあふれる要因となり、出演者も真剣そのものの歌唱で挑んでくる。舞台と客席が一体となるこの時間は、音楽の素晴らしさ、喜び、熱量を何よりも感じられるものとなっているのだ。回を重ねるごとに、「オペラ紅白を観ずに年は越せない」というファンが増えているのもむべなるかな。今年こそあなたも、その目と耳で体験してみてほしい。
文:室田尚子
(ぶらあぼ2023年12月号より)
2023.12/14(木)18:30 サントリーホール
問:ヴォートル・チケットセンター03-5355-1280
http://operaconcert.net
※出演者やプログラムの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。