東京オペラシティ B→C 新野将之(パーカッション)

聴き手のプリミティブな感覚を呼び起こす注目の若手打楽器奏者が登場

(c)FUKAYA Yoshinobu/auraY2

 新野将之は20歳にしてイタリア国際打楽器コンクールのスネアドラム部門で満場一致の1位に輝き、その後も研鑽を重ね多数のコンクールで高位入賞を果たしてきた。今年はデビュー10周年という区切りの年。B→Cでは経験と知見を注ぎ込んだ盛りだくさんのプログラムを披露する。

 最初と最後にトレードマークとも言うべきスネアドラム・ソロ作品を置いた。とりわけトリを飾る自作「蠢(うごめき)」は皮膜を素手で叩いたり弾いたり擦ったりすることで多彩な音色を引き出す、演奏家ならではのアイディアが満載。

 バッハ作品は「平均律第1巻」の前奏曲第1番とカンタータ「目覚めよと呼ぶ声が聞こえ」からのコラールをマリンバで演奏し、そこからバッハ作品を大胆に編曲したノアゴーの「ザ・ウェル・テンパード・パーカッション」や権代敦彦の「“Vigilate !” ─ 世の終わりのためのコラール」(委嘱編曲初演)へとそれぞれつなげる。さらにオリジナル作品ではノアゴーの「易経」、権代の新作「Gone, gone, gone beyond」(委嘱初演)などを披露。「易経」は四つの楽章からなり、パフォーマンス的な要素も含む大作だ。新野の腕の見せ所となるだろう。また新野は権代作品の孕む聖性と狂気という二面性に惹かれているという。今回の演奏会のテーマは「憧れと現実」ということだが、バッハの神聖さ(=憧れ)がノアゴーと権代という二つの経路を通って現代音楽(=現実)へと変容する様子を描き出そうという趣向のようだ。

 当日は共演者として国立音大の後輩、やはり名手として知られる悪原至も登場。日本の打楽器界のこれからを担う二人の競演にも注目だ。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2023年12月号より)

2023.12/12(火)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール
問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999 
https://www.operacity.jp