ヤメン・サーディ ヴァイオリン・リサイタル

ウィーン期待の超新星、待望の初来日!

 ヤメン・サーディは1997年、イスラエル・ナザレ生まれのヴァイオリニストである。2022/23シーズンに25歳の若さでウィーン国立歌劇場管弦楽団のコンサートマスターに就任し、話題を集めた。バレンボイム=サイード音楽院で最初のレッスンを受けた後、イスラエル・フィルのコンサートマスター、チャイム・タウブに師事。11歳でウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団に入団し、6年後にはそのコンサートマスターに就任している。ベルリンのバレンボイム=サイード・アカデミーで学士号を取得した後、さらにクロンベルク・アカデミーでミハエラ・マルティンに学んだという。

 以上の経歴を見ても分かる通り、サーディのこれまでの歩みは、故郷イスラエル、そしてバレンボイムと深く結びついている。ナザレは、イスラエルでもアラブ系住民が多い町だが、サーディという苗字もアラブ系。両親は音楽とは関係がなく、彼は当時スタートしたばかりのバレンボイム=サイード音楽院で、ゼロからクラシックの教育を受けた。パレスチナ人との緊張関係にあるイスラエルで、人々が音楽を通じてつながることを目指したバレンボイムと文学批評家エドワード・W・サイードの思想は、サーディにおいて見事に結実したと言える。なぜなら彼は、バレンボイム=サイード音楽院とウェスト=イースタン・ディヴァン管から世界へと巣立ち、様々な出会いの後、欧州のトップ団体の首席奏者となったからである。サーディは、「バレンボイムから多くのことを学んだ。音符の一音一音に意味があり、それを追求しなければならないことを痛感した」と語っている。彼はバレンボイムによって、音楽というユートピア(「フィルハーモニー」という言葉の語源は、「調和を愛する」である)に導かれたが、戦争とコンフリクトが支配する現代において、これは希望に満ちたメッセージであるように思われる。

 サーディは、浜離宮朝日ホールにおける日本での最初のリサイタルで、プーランク、ブラームス、R.シュトラウスの作品を演奏する(共演はピアノの沢木良子)。プーランクが友人の死をきっかけにカトリック信仰に傾倒し、内省的な作風に移行し始めた「危機の年」を経て書かれたソナタが入っているところが目を引く。サーディはベルリン時代からピエール・ブーレーズ・アンサンブルに参加し、自らもキャンティ・アンサンブルを設立。室内楽に深くコミットしてきた。それも今の若い音楽家らしく、ソリストになるためだけの教育を受けてきた人とは、やや趣を異にする。我々はこの演奏会で、開かれた世界と若き俊英の新鮮な空気を感じることになるだろう。
文:城所孝吉
(ぶらあぼ2023年10月号より)

2023.11/22(水)19:00 浜離宮朝日ホール
問:オフィス山根 contact@officeyamane.net 
https://officeyamane.net

他公演 
2023.11/23(木・祝) 武蔵野市民文化会館(小)(完売)